栗蒸し羊羹(くりむしようかん)のメチャ美味しい季節、である。
これまで上質の味わいの栗蒸し羊羹をいくつか食べてきたつもりだが、今回のものは大相撲で言うと「東のはみだし大関級」(なんてありかな)、ボクシングやプロレスに例えると、「ヘビー級ランカー」ではないだろうか。
洗練というより、晩秋の紅葉を背景にそのまんまずっしりと押し出てきたような感じ。
とにかく見ていただきたい。
風流な竹皮など入る余地もない。
デカすぎて、竹皮では収まらない(?)ので、サランラップで包まれたそのお姿は、ついボブ・サップを連想してしまったほど。栗入りのボブ・サップ(ハズしてるかも?)
東大赤門前に暖簾を下げる「御菓子処 扇屋(おおぎや)」の逸品。1棹が1500円(税込み)。
季節の生菓子やカステーラでも知られた店である。創業が昭和25年(1950年)。当主は2代目。3代目も修業中とか。
家に持ち帰って、翌日の賞味となった。
重さを量ると398グラムもある。長さは163ミリ、幅は47ミリ、厚さは46ミリ。
何よりも驚かされるのは、栗の多さ。国産の栗(茨城産)を惜しげもなく、ぼこぼこと加えている。
このあたりも洗練というより、あまりに素朴な大盤振る舞いって感じ。
職人の手の匂いのする、小倉色の蒸し羊羹は、もちもちと柔らかく、口に運ぶと、控えめな甘さとこしあんの風味がいい具合に「案外イケるでしょ」とささやきかけてくるよう。ねっとり感もある。ボブ・サップというより、アリシア・キーズ?
こしあんは自家製で、十勝産えりも小豆に鬼ザラメでゆるりと練り上げ、そこに小麦粉と片栗粉を加えて、さらに蜜煮した和栗を浮かせる。葛は使っていないようだ。
和栗はゆで栗のようにしっとりと柔らかい。薄い甘さ。
その晩秋の風味が蒸し羊羹のある種「野暮ったい洗練」とよく合っている。塩気もほんのり。
口どけもとてもいい。
サランラップで優雅さが削がれている気もするが、これは紛れもなく、庶民派の絶妙な栗蒸し羊羹である。
期間限定品なので「来年正月明けにはおしまいです」(2代目)。
本郷周辺にはいい老舗和菓子屋が多いが、ここも歴史は70年ほどだが、その一角に加えたくなる。二代目店主とその女将さんの応対も、高ビーではなく、東京人の粋が白衣からにじみ出ている。
目の前には東大赤門(旧前田藩上屋敷御守殿門)。余計なお世話だが、東大生にこの栗蒸し羊羹の価値がわかるか、ちらっと気になったりして(笑)。
所在地 東京・文京区本郷5-26-5