紅谷(べにや)の驚き、と素直に表現したくなった。
正直に告白しよう(カッコつけすぎだ)
青山紅谷には何度か行っているのに、「池袋紅谷」の存在を深くは知らなかった。穴があったら入りたいよ、ホント。
池袋というより雑司ヶ谷、と言った方が地理的にも歴史的にも近いと思う。
より歴史を感じる。
大正13年創業。シンプルで美しい店構え。余分なものがない。
「豆大福」のノボリ。
店内に一歩足を踏み入れたら、宝石のような生菓子、上生菓子、餅菓子などがそれぞれ小さくオーラを放っていた。
これは・・・すごい和菓子屋さんだ、あんこセンサーが鳴り続けている。
★ゲットしたキラ星
生きんつば 200円×2個
栗蒸し羊羹 300円
栗どら(和三盆糖)380円
豆大福 200円
※すべて税込みです(12月6日現在)。
【センターは?】
ここまで上質が揃っていると、どれかをセンターに持ってくるのはほとんど意味がない。
とはいえ、このクールな和菓子屋さんのオリジナリティーという意味では「生きんつば」と「栗どら」の秀逸さが光る。
生きんつば:ショーケースの中で「おっ」と思ったのがこの「生きんつば」。きんつばは普通は小麦粉の薄い皮があんこ(+寒天)を覆っているが、ここはその皮がない!
見事な小倉あんがむき出しで「ようこそ、小豆の世界へ」とささやいているよう。
サイズがユニーク。円柱形で、上から見ると、円のサイズは左右43ミリ、横から見ると高さが33ミリもある。
真ん中で切ると、北海道産あずきが「夜の梅」どころか夜の梅だらけ、と言いたくなるほど、花開いている。吸い込まれそうになるほど。これは小豆好きにはたまらない小世界。
〈味わい〉歯がすっすっと入る。寒天の存在は主役の小豆を邪魔しない。
選び抜いた小豆のいい風味が口の中でそよ風になる。
塩気はあまり感じない。
おそらく池袋紅谷のポリシーなのだろう、甘さが薄め。淡い、と言った方がいいかもしれない。
それを物足りないと思うか、絶妙な匙加減と思うか、評価と好みが分かれるかもしれない。
私はむろん後者。
小豆の皮まで実に柔らかく炊かれていて、「小豆本来の美味さを感じてほしい」という店主の心意気まで読み取れる。
私の大好きな浅草「徳太楼」のきんつばよりも小豆の純度という意味ではあるいは上回っているかもしれない。
口の中でとろけるように余韻を残しながら、すーっと消えていく感触が素晴らしいと思う。
栗どら(和三盆糖):焼き色が虎模様の、見るからにしっとりとしたどら皮。口がきれいに閉じられていて、隙がない。店主の手の存在。
皮をめくると、オーガニックな栗あんに包まれた蜜煮栗(大栗丸ごと1個)が現れる。本場・四国の和三盆を贅沢に使った逸品で、私がこれまで食べた栗のどら焼きとは見た目も違う。
包丁で真ん中から切ると、その断面が二重三重になっていて、店主の和菓子職人としてのこだわりと腕が見て取れる。
サイズは約70ミリ×70ミリ。厚みが35ミリもある。重さは68グラムほど。
〈味わい〉小麦粉と卵、蜂蜜、それに和三盆が奥までやさしい、上質な食感となっている。
栗は茨城産だと思うが、ほっこりと柔らかく、なめらかな栗あんとのマリアージュが絶妙なバランスで、より自然な甘さを運んでいる。
甘すぎない、深いコクについ頷きたくなる。
●あんヒストリー
創業は大正13年。現在3代目。初代は雑司ヶ谷・鬼子母神近くで創業。戦災で店が焼け、今の場所に移転した。江戸時代に幕府の御用菓子屋だった「紅谷志津摩」(幕府崩壊とともに廃業)との関係は不明。青山紅谷との関係も「よくわかりません」とのこと。とはいえ「もともとは文京区だったようです」が本当なら、どこかでつながっているかもしれない。3代目は京都で修業してから跡を継いでいる。進取の気性に富んだ「御菓子司(おんかしし)」。
【サイドは?】
栗むし羊羹:高レベルの栗蒸し羊羹で、蜜煮した大栗が惜しげもなく浮かんでいる。
蒸し羊羹部分はこしあんが強めで、小豆のいい香りが立ち上るよう。柔らかく、甘さはかなり控えめ。
栗はむしろキリッとしていて、柔らかな蒸し羊羹との対比が絶妙だと思う。
豆大福:柔らかな羽二重餅と赤えんどう豆の量。見るからに「お見事!」と声をかけたくなる見事な豆大福で、かなりデカい。餅粉のかかり具合もいい。
重さは90グラムほど。
たっぷりのつぶあんは藤紫色に近い。ふっくらと柔らかくて、甘さをかなり抑えている。
塩気もかすか。
インパクトの強い豆大福に慣れた舌には少し物足りないかもしれない。
だが、この素材自体の美味さを追い求める店主のポリシーはここでも十分に発揮されている。
《小豆のつぶやき》
▼和菓子の奥の深さを今回は改めて思い知らされた▼江戸寛政年間に練り羊羹をつくったと言われる伝説の菓子職人・喜太郎さん(「紅谷志津摩」初代)の点と線を追い求めている身としては、新たな線の可能性を見た思い▼3代目の女将さんにもお目にかかったが、ここに本物がいる、という思いに駆られた。
「御菓子司 池袋紅谷」
所在地 東京・豊島区南池袋2-11-4