東海道五十三次・府中宿(静岡市)で出会った不思議系和菓子屋さんを書きたい。
徳川家康で盛り上がる駿府城の北、大岩地区で大きな日除けのれんが印象的な、レトロな見世蔵のような店構えが見えた。足が止まる。日除けのれんには「大国屋」(だいこくや)の墨文字と浮世絵。古さと斬新さ。
時代劇の映画のセットのようにも見える。
戦後すぐ、昭和20年(1945年)創業の「大国屋製菓舗」(だいこくやせいか)。78年ほどの歴史。現在3代目(2代目も現役)。
やや暗めの店内に足を踏み入れると、ちょっと驚きの光景が広がった。
朝生の生菓子や餅菓子からどら焼き、焼き菓子まで豊富な種類の和菓子が皿盛りされていた。ある種、駄菓子屋さんのような、クールな陳列法だと思う。
使い込まれた木枠のケース棚が私の好きな世界だった。タイムスリップ感が心地よい。江戸・明治・大正の遺伝子を受け繋いでいるよう。
ここはどこ、時代はいつ? そんな不思議な感覚にさえ襲われた。
ざっと見たところ15種類は軽くありそう。あんこ菓子の見本市のよう。
これは侍・・・いやあんこジャパン、に見えなくもない。
特徴は小ぶり(カワイイ)なこと、価格も手に取りやすいこと。すべてに手抜きが見えない。奥が製造所になっていて、店主が和菓子作りに精を出していた。姿がいい。
家族経営の和菓子屋さんのようで、敷居の低さの中に、凛とした気配もある。
次々と常連客(たまたまなのか子連れの主婦が多い)が来て、生菓子を買っていく。
店に着いたのは午前10時だったが、すでに売り切れも出ていた。予想外の展開。
全部食べたい欲望に駆られたが、そうはいかない。
頭と胃袋の話し合い(?)で、食べたのは次の通りです。
★ゲットしたキラ星
〈店内で〉
どら焼き 200円
道明寺餅 160円
揚げまんじゅう 130円
〈自宅で〉
イチゴ大福(紅ほっぺ) 260円
かのこ 160円
栗蒸し羊羹 250円
栗まんじゅう 160円
胡桃まんじゅう 160円
※いずれも税込み価格
【センターは?】
イチゴ大福とかのこ、栗蒸し羊羹の三つ巴
味わったものがそれぞれ上質で、これだけの種類の生菓子を毎日つくり続けていることにまずは敬意を表したい。
●店内で
店内の一角で無理を言って、いくつか(どら焼き、道明寺餅、揚げまんじゅう)を賞味した。お茶を出してくれて、あんこ旅の幸せホルモンにひたる。
あんこづくりの小豆はイケメンの3代目によると、北海道十勝産、砂糖は品目によってグラニュー糖、上白糖、黒糖、粗製糖などを使い分けているとか。
意外なおいしさだったのが卓球ボール大の「揚げまんじゅう」(中はこしあん)。かりんとう饅頭のような味わいで、小麦粉ベースのサクサク皮と中のこしあんが噛むと、口の中で崩れ落ち、溶けていく感触がとてもいい。塩加減も効いている。
●翌日は自宅で
翌日自宅に帰ると、すぐに食べにかかった。
イチゴ大福とかのこ、それに栗蒸し羊羹が特に気になったので、先に食べる。
イチゴ大福:冷凍状態で並べられていたので、賞味期限は翌日まで大丈夫だった(当日中がベスト)。左右50ミリ弱の小ぶりなサイズ。重さは約67グラム。
餅は弾力性があり、少し硬くなりかけていたが、この店のこだわりのポリシーを感じた。求肥ではなく杵で搗いた餅のようだ。
地場の鮮やかな紅ほっぺが藤紫色のこしあんにくるまれていて、ガブリと行くと、紅ほっぺとこしあんが融合して甘くジューシーな広がり。美味の波。
こしあんにはほんのり塩気があり、それがいい塩梅で、これはいいイチゴ大福だな、と思わせるに十分。
かのこ:これも大きさはイチゴ大福と同じくらい。重さは約61グラム。透明な寒天の膜がキラキラ。蜜煮した大納言あずきと中のしっとりしたこしあんのバランスが上質。大納言あずきはほろほろと柔らかい。塩気もある。店主の心意気が伝わるような、やさしい味わい。
栗蒸し羊羹:これは期待以上だった。季節限定なので、今回はぎりぎり間に合った。大きさは2個分ある(約80ミリ×42ミリ×厚み26ミリ)。
主役のこしあんと小麦粉、葛粉が上品でなめらか。塩気が魔法のように全体をワンランク上質に仕上げていると思う。蜜煮した栗との官能的な合体にため息が出た。
【サイドは焼き菓子 】
焼き菓子が美味そうだったので2種類だけ買い込んだ。
栗まんじゅう:中は白あん。蜜煮した栗が一個。小麦粉ベースの香ばしい皮と一緒になって、いい歯触りとともに口の中で融け合うと、栗の焼き菓子の醍醐味を素朴に味わえる。
胡桃まんじゅう:胡桃(くるみ)のカリッとした歯触りと風味がとてもいい。中はつぶあん。胡桃とあんこの相性はとてもいいと思う。
「大国屋製菓舗」
最寄り駅 JR静岡駅からバスで約15~20分