越後長岡の老舗「越乃雪本舗 大和屋」(やまとや)といえば、和菓子の世界では知られた存在。
現在10代目。長岡藩主・牧野の殿様が「天下に比類なき銘菓」と絶賛した上菓子「越乃雪」が有名だが、伝統をきちんと守りつつネオ和菓子にも挑戦する姿勢がとってもクールでもある。
軸足は京都と長岡をクロスさせた上菓子屋さんだと思うが、敷居は高ビーではない。
で、今回賞味したのはその中の数点(全部食べたいところだが)。
去年リニューアルした商家造りのレトロな建物(登録有形文化財)の長暖簾をくぐると、木枠の渋いサンプル棚があり、その向こうに江戸時代さながらの帳場がさり気なくある。
時代劇のセットのようでもある。あんこころがよろめく。
★今回ゲットしたキラ星
季節限定「いちご餅」 497円
淡小倉(大納言) 1本891円
山之端(上生菓子) 356円
瑞穂最中 162円
※すべて税込み価格です。
【センターは?】
卵形のたおやかな「いちご大福」に脱帽
どれをセンターに持ってきたらいいか、大いに悩んでしまった。
味わった4種類とも見事なこだわりの一品で、この店のチーフ和菓子職人が京都の老舗で修業してきたことがわかる。
姿は見えないが、指先の動きが見えるよう。
個人的な好みで言えば、「淡小倉」(大納言を散らした淡い練り羊羹)が特に気に入ったが、春という季節を考えると、きれいな卵大の大きさのこの「いちご餅」をセンターに置くことにした。
コロンブスの卵のように目立つ位置に置いてあった。
大きめの卵形が美しい。
うっすらとかかった餅粉が春の雪にも見える。
この形のいちご大福ってあまりないのでは、と思う。
よく見ると、頂上にうっすらといちごの赤が潜んでいる。
ぴこぴこ、ときめき。
〈さあ実食タイム〉
日持ちしないので、まずはこれと上生菓子だけをホテルで味わうことにした。
餅は羽二重餅で、手に持っただけで柔らかさが伝わって来た。
細心の注意で小型包丁で切ると、中から白あんに包まれた、見るからに鮮度のいいいちごを中心にして計3層の断面が現れた。
いちごは「弥生姫(やよいひめ)」で、羽二重餅と自家製白あんとのバランスが素晴らしい。
弥生姫自体が甘みとほのかな酸味が特徴。主役としての存在感を十分以上に押し出している。
白あんの、甘すぎないしっとりとした舌触り。ほどよいボリューム。自然な風味が春の土壌のようでさえある。
プラスアルファ。練乳も隠し味に加えているようだ。
羽二重餅が全体を包み込み、噛むたびに、三位一体となって口の中で春風になる。
「これはワンランク上のいちご大福だな」とポロリと言葉が漏れてしまった。
【セカンドは?】
淡小倉:夜の梅より淡い、上品な小豆羊羹
1本の大きさは100ミリ×50ミリ。厚みは約33ミリ。重さは約230グラム。
明るい小豆色の本体。なまめかしいテカリ。
包丁で切ると、大納言小豆がいい具合に夜の梅みたいにポツリポツリと咲いている。
歯触りが柔らかい。
大納言小豆のいい風味が立ちあがってくる。
上質な、茶席にも使いたくなる小豆羊羹。
余分なものがない。
これだけの小豆羊羹はそうはない、と思う。
穏やかでやさしい甘さが、舌の上でふくよかに広がっていく。
余韻もきれい。
山之端:桜羊羹とよもぎの浮島二層仕立て
これはひと目で気に入ってしまった。
上生菓子の伝統を引き継ぐ一品。
桜羊羹とよもぎの風味が口の中でとろけ合う。
控えめで上品な甘さ。
茶会でも重宝されていると思う。
浮島(しぐれかも)の野性的な舌触りが、桜羊羹のねっとりと、いいマリアージュに昇華しているようで、これは抹茶で味わいたい。
瑞穂最中:つぶあんがぎっしりと詰まった、大きめの円形最中。購入して5日後に食べたのとバッグの中に入れて運んだためか、皮種はホロと崩れそうになっていたが、それを差っ引いても、私の好きな濃厚な最中だと思う。
つぶあんはかなり甘めで、北海道産小豆の風味が怒涛のように押し寄せて来る。
水飴と寒天のつなぎがとてもいい。
●あんヒストリー
創業は安永7年(1778年)。初代は長岡藩御用達の金物商だったようだ。9代目の藩主が病に侵されたとき、依頼を受け、今もこの店の目玉でもある「越乃雪」(越後産寒ざらし粉×和三盆の押し菓子)をつくり、献上したところ体力を回復し、「天下に比類なき銘菓」と褒められ、藩主のお墨付きを得て、和菓子屋も始めたという。現在10代目だが、9代目女将さんもご健在で、帳場にも立つ。ファミリーで伝統と創作の世界に挑んでいる。
「越乃雪本舗 大和屋」
所在地 新潟・長岡市柳原町3-3