京都・金沢に続く和菓子のメッカ・松江(島根県)。
緊急事態宣言などで行けずじまいなので、仕方なく(?)お取り寄せすることにした。巣ごもり生活の中の新しい楽しみ方、でもある。
江戸時代創業の老舗が数軒あり、選択に迷うが、今回のお取り寄せは創業文化6年(1809年)の「菓子老舗 桂月堂(けいげつどう)」の3品を選んだ。現在11代目というからちょっと(かなり)驚く。
・薄小倉(うすおぐら)
・小倉松草(おぐらまつくさ)
・柿山水(かきさんすい)
薄小倉は同店の目玉の一つで、蜜煮してじっくり寝かせた大納言小豆(北海道産)を琥珀(こはく=寒天ベース)で閉じ込め、表面を糖化(薄氷化)させている小ぶりな逸品。ファンも多い。
小倉松草は松江の文化を築いた茶人大名・松平治郷(松江藩七代目藩主 1751~1818年)の生誕250年を記念して作られた茶菓子で、薄小倉とほぼ同じ大きさ。よもぎの求肥(ぎゅうひ)を小倉羊羹で挟んだもの。
柿山水は大ぶりの干し柿の中に白あんを詰めた、いぶし銀の魅力的な逸品。白あんの中には刻み栗が練り込まれている。秋から3月までの季節限定品。
松平治郷は財政難だった松江藩を立て直し、隠居後、不昧(ふまい)と号して、茶の道を究めたお方。和菓子への造詣も深く、茶会には凝った和菓子を出している。
松江の和菓子のレベルが高いのも、こうした土壌があってのもの。
3品それぞれ凝った作りと味わいだが、ビジュアル的にもほおーっと唸ったのが「柿山水」。
一個の重さ(中身)は約75グラム。手に持つとズシリと来る。
パッケージを取ると、粉雪がうっすらとかかったような濃い干し柿がふてぶてしいほどのお姿で現れる。わびさびの極致にも見える。ついひざまづきたくなる。
見ようによってはアクの強い千両役者と言えなくもない。
干し柿に白あんを詰めた凝った和菓子は岐阜や信州、京都などにもあるので、特別に珍しいものではない。
私もこれまでいくつか食べているが、この「柿山水」は干し柿のデカさとねっとり度がすごい。蜜が滴るようで、かなり甘い。一見すると、ヘタが見えないのが他の同種のものと少し違う。なので見かけ上は柿のイメージがない。
だが、二つに切ると断面がお見事。
中の白あんは北海道産手亡(白いんげん)を使っているようで、甘さを押さえている。なめらかできれいなあんこ。
食感は干し柿の存在感が5分の3を占め、中の白あんと刻み栗が干し柿の怒涛の寄りをギリギリのところで押しとどめ、全体を気品あるものに仕上げている。そんな感じかな。
「柿山水」という命名も風流で、渋好みの気配もある。
薄小倉(右)と小倉松草(左)にはコーヒーが意外に合う。
どちらも大納言小豆を使っているが、食感がまるで違う。
薄小倉はじゃりじゃりとした歯ごたえと琥珀羹の風味が大納言小豆の美味さを引き上げている。小豆好きにはたまらないと思う。光が差し込むと、琥珀(こはく)が透明にきらめき、大納言のテカリとのコラボに食べながら見入ってしまう。
小倉松草は小豆羊羹とサンドされたよもぎ求肥餅がもっちりとした歯ごたえで、甘さがほどよい。こちらも表面を糖化させている、小豆のいい風味の中でよもぎの香りがほんのりと揺らめく。
「松平不昧公好み」と書かれているが、実際に不昧公が茶会に出していたかどうかは不明。様々な文献を参考にして作り上げたのではないか。
それでもコーヒーを飲みながら味わっていると、和菓子(特に羊羹類)が劇的に発展した江戸・文化年間が舌の上で舞うような気がしてくる。不昧公には抹茶が一番合うとは思うが、令和3年はドリップコーヒーもクールだと思う。
コロナ包囲網の中の贅沢なひととき。
【今回のお取り寄せ】
薄小倉(6個入り) 799円
小倉松草(6個入り)994円
柿山水(5個入り)1728円
送料(クロネコ便)1200円
総合計 4721円