あんこ旅を続けていると、思わぬ「奇跡」に出会うことがある。
みちのく安積(あさか)=現福島・郡山市で明治32年(1899年)から暖簾を下げている百年越え老舗「安積野菓子処 平田屋」は、私にとっては、そんな金星の和菓子屋さん。
正直に言うと、郡山は東北の中都市なのに、私にとっては「あんこ不毛地帯」(失礼)だった(結果的には目利き失格と自戒を込めて)。
ところが、柏屋本店(薄皮饅頭で有名)のついでに、軽い気持ちで立ち寄ったこの小さめの店がすごい店だった。
郡山恐るべし、私の中で意識が変わってしまった。
京都や金沢にいるような、錯覚を起こしてしまうほど瀟洒な店構え。白地の暖簾。
店内に一歩足を踏み入れたら、そこは上生菓子屋のようでもあり、朝生菓子屋のようでもあり、リーズナブルな生菓子がきらきらと並べられていた。
これはひょっとして大当たりか?
★ゲットしたキラ星
元祖ゆべし(あん入り)80円
草餅(つぶあん) 120円
さくら餅(季節限定)140円
道明寺(季節限定) 140円
きんつば 100円
※すべて税込み価格です。
【センターは?】
草餅:表面にきな粉、中はつぶあん
正直に言うと、すべてが上質で、しかもあまりにリーズナブル。
なので、どれをセンターに持ってきてもきちんと説明できる。
とはいえ、季節感と表面にきな粉をまぶしている草餅はそう多くはない。
なので、今回はこれをセンターに持ってきた。
ごらんの通りのお姿。添加物を使用していない、この店のこだわりにあんこハートがピコピコ。
サイズは約60ミリ×55ミリ。楕円形で、重さは65グラムほど。
〈実食タイム〉
よもぎ餅の柔らかな伸びときな粉の香ばしさ。
それに噛んだ瞬間、よもぎの爽やかな風味が一波二波となって押し寄せてくる。
中の自家製つぶあんは北海道産小豆×白ザラメ。素材のこだわりがわかる。
風味、コク、余韻・・・すべてAクラスだと思う。120円が信じられない。
ゆるめのあんこだが、それがあずきの上質な世界につながっている。
誠実に甘さを抑えているのがよくわかった。
仕事中でお会いできなかったが、店主の腕と志に触れた思い。
●あんヒストリー
「平田屋」は現在5代目。創業時は分家だったが、本家が廃業したことによって暖簾を受け継いでいるようだ。5代目は大阪で修業後、パリやスペインなど海外にも見聞を広め、和菓子職人としての立ち位置を模索している。並みの御曹司とはひと味違う和菓子の小世界を切り開きつつあると思う。「元祖ゆべし」は明治の初代と二代目が考案したようで(諸説ある)、今や東北の名品となっている。隠れた歴史がおもしろい。
【サイドは?】
さくら餅&道明寺:江戸・京都の食べ比べ
季節の和菓子で、さくら餅(こしあん=㊧)と道明寺(こしあん=㊨)をいただく。
一つの店で上質な季節の生菓子を同時に味わう機会はそう多くはない。
日持ちしないので、その日のうちに味わった。
こしあんも自家製。
個人的な好みを言うと、さくら餅の方が塩漬け桜葉の香りが薄い小麦粉の餅にしっかり付いていて、こしあんの美味さを押し上げている印象。
東京の名店に引けを取らない、価格を考えると、むしろ超えているのでは、と思う。
道明寺は糯米のもちもち感が十分にあり、なめらかなこしあんと共鳴している。
桜葉の香りも悪くない。
さくら餅=すっきり、道明寺=もっちり。
好みが別れるのは仕方がない。
元祖ゆべし:意外だったが、これは創業当時からのもの。もっちりとした歯触りと醤油の香り、それになめらかな自家製こしあん。
「元祖」と控えめに名乗っているのが奥ゆかしい。
1個80円というのも「うっそー」と言いたくなる。
黒糖の香りとケシの実の香りがかすかに来る。
きんつば:小ぶりだが、つぶあんと寒天のバランスが素晴らしい。
あずきの形はしっかりあるのに柔らかい。
つぶあんのふくよかな風味がすぐに広がる。
浅草「徳太楼」のきんつばが私の好みだが、ここにもほとんど同レベルのきんつばが存在していること。
あんこの世界は広くて深い。
だから、あんこ旅は止められないな。
「平田屋」清水台本店
所在地 福島・郡山市清水台2-6-6
最寄り駅 JR郡山駅から歩約10分。