新潟へのあんこ旅で最も驚かされたのがこの一品。本日は日曜増刊号。
どうだろう? この大きさ、ド迫力、存在感。
表面を粉砂糖が覆い、「昔から新発田ではお目出たいときなどに和菓子屋さんに注文して、家族みんなで食べてましたよ。でも今はつくる店が少なくなってね」(地元の和菓子通)というもの。
アプローチ:街中での取材で、城下町・新発田が全国的には知られざる和菓子王国であることを確認、市内には歴史のある和菓子屋さんが多く、いぶし銀の隠れた名店や和菓子職人を探すという私のポリシーからあれこれ取材を続けた。
たまたま和菓子好きのご婦人の口から「あっ、そうそう」とポロリと出たのが百年は続く老舗「御菓子 宮澤屋」の名前だった。
ハズレてもともとの軽い気持ちで、小雨の中を急いだ。
びっくり。木造の古い店構え。ガラス時の引き戸。大正時代にでもタイムスリップした気分になった。
時が止まったような、手書きの品札がガラスにぺたんと貼ってある。
店内は暗めだが、私のあんこセンサーがぐいぐい反応するのがわかった。
★ゲットしたキラ星
千歳(ちとせ)1個570円
羊羹(本煉り)1本460円
(白煉り)1本460円
きなこ捻り 1袋400円
※すべて税込みです。
千歳(ちとせ):直径約80ミリ、重量は約205グラム。
これだけデカいあんこ菓子はそうはないと思う。
紅白2種類。木枠のガラスケースにどっしりと納まっていた。
形は丸いが、よく見ると饅頭とも違うし、大福とも違う。
私の中でも初めて見るお姿。
菓銘の「千歳(ちとせ)」は約2年前、金沢の老舗「森八」と同じだが、中身は全く違うものとしか言いようがない。大きさがまるで違う。
驚きはそのほかの手づくりの和菓子類。目が泳いだ。
煉り羊羹や水ようかん、飾り生菓子まである。
紅白2種類買いたかったが、予算と日持ちの関係で、「白」だけにした。
●実食タイム
自宅に帰ってから、いよいよ実食。
表面を覆う粉砂糖(生らくがん状)を包丁で切ると、見事な自家製こしあんが現れた。
濃厚な赤紫色の美しいこしあんがぎっしり。
よく見ると、こしあんの表面を薄い半透明の薄い膜(求肥?)が覆っている。
シンプルだが、かなり凝ったもので、店主の和菓子職人としての腕がただ者ではないことが見て取れた。
「もう年だから昔ほどはつくれなくなった。昔はもっといっぱい作ってましたよ」
そう話していたことが耳に残っている。
あまりにデカいので、木のフォークでさらに切り分ける。
最初はザクっとした歯触り。粉砂糖の入り口。
続いて、こしあんのしっとりとした密度が口の中でピュアに溶けていく。
いい小豆の風味が広がる。これはすごいね。
甘すぎない、絶妙な甘さのあんこ。塩気がほんのり。
私にとっては隠れた名人に出会った気分。
「素材は地場のものにこだわっていますよ。毎日赤鍋であんこを煮てる」
そうおっしゃっていたことが、このあんこ菓子の美味さで裏付けられた。
とにかくすごいものに出会った、と味わいを噛みしめる。
煉り羊羹(本煉りと白煉り):コスパのスゴさ。
サイズは110ミリ×45ミリ。厚みは約30ミリ。重量は206グラム。
あずきも白いんげんも地場の素材を使っているようだ。
柔らかな生羊羹と表現したくなる歯ざわり舌触りで、こちらも甘すぎない。
質の高さと低めの価格が私の中でかみ合わない。コスパの良さ。
煉り羊羹の煉り方が素晴らしい。
どちらも同じくらい素材の風味をギリギリまで生かしていると思う。
本煉りと白煉りが風味豊かに広がる。幸せホルモンがじわり。
新発田でかような店に出会えるとは。
おまけ:きなこの捻りのあまりに素朴な質。
地場の大豆からきな粉をつくり、それに水飴を加えていると聞いて、驚きは広がった。
すべて自分の目で選び、自分の手でつくる、というのが職人気質と思う。
糖蜜の白さときな粉棒の素朴な手づくり感。やさしい、柔らかな味わい。控えめな甘さが店主のポリシーを体現している。
●あんヒストリー
古文書が焼失したので創業が正確には不明だが、「百年以上は経っている」とか。ご高齢の店主は3代目。腰痛で「昔みたいにはつくれない」と謙遜するが、上菓子から駄菓子まで自分の手でつくり続けているのはやっぱりすごい。立派な和菓子職人が旧城下町の一角にいること。そのお姿があんこの神様に思えてきた。
「御菓子 宮澤屋」
所在地 新潟・新発田市中央町3-6-14