和菓子の中でも「シベリア」は面白い位置にいる。
羊羹(水ようかんやあんこもある)をカステラ生地でサンドしていて形がほぼ三角形。どこかノスタルジックな、和菓子というより和洋菓子と分類したくなる不思議な存在。
さいたま市岩槻区に「面白い店がある」という情報を知人から得て、足を延ばした。
江戸時代は日光御成街道の宿場町として栄え、人形の町としても有名なエリアにその面白い店が暖簾を下げていた。
串だんごやかのこなど生菓子も作っているが、店内のスペースの半分近くをシベリアが占めていた。
全部で12種類ほど、季節限定も入れると、14~15種類になる。
色とりどりのあんこ、シベリアのオールスター、って感じ。
こんな店があったことに正直びっくり。知らなかった(汗)。
昭和30年(1955年)創業の一軒家和菓子店「関根製菓」。
現在2代目。創業当時からシベリアを作り続けていることも分かった。
全部は食べきれないので、後ろ髪を引かれる思いで、5種類だけゲットした。
シベリア版ゴレンジャー、と勝手に命名しました。
★購入したキラ星たち(写真上=右から)
・昔なつかしシベリア(税込み 180円)
・小倉シベリア(同)
・ミルクコーヒーシベリア(同)
・レモンシベリア(同=季節限定)
・ラムネシベリア(同=季節限定)
【本日のセンター】
ラムネシベリアvs昔なつかしシベリア
水色(空色?)のラムネ餡(ようかん)は意外な美味さだった。
こんなシベリア、初めて見た。
たまたまいらした2代目女将さんは気さくなお方で、「ラムネのシベリアって珍しいとよく言われます。夏場は特に人気があるんですよ」。
ベースは白あん(北海道産いんげん豆)だが、きれいな水色(着色している)がどこかポエムで、ひょっとして受け狙いかな、という気がしないでもない。
なので、期待半分で自宅に戻ってから賞味してみた。
大きさは70ミリ×45ミリ(短い部分は20ミリほど)。
厚さは約40ミリ。
カステラ部分が予想を超えて密度とふわふわ感が絶妙だった。新鮮な卵黄の香りがとてもいい。
「シベリアって意外に作るのが大変なんですよ。仕上げるまで2日がかりなんですよ」(女将さん)
すべて手作業で、羊羹部分とカステラ生地部分をうまく密着させるのに、熟練の技を必要とするようだ。
ラムネようかんは甘さがほどよく抑えられ、いんげん豆と寒天の配合が絶妙。
かすかな酸味と刺激はラムネの風味そのもの。
予想を超える融合で、前言撤回、イケました(失礼しました)。
続いて、最も定番と思われる「昔なつかしシベリア」へ手が伸びる。
最初のひと口で、これは絶品、と脱帽したくなった。一番私の好みに合っていた。
大きさはほとんど同じだが、重さは約70グラム(ラムネは約60グラム)。
あんこの羊羹(厚みが約15ミリ)が素朴で、しかもこしあんの存在感が舌に迫ってくる。
北海道産小豆のいい風味が、絶妙な甘さで、ふわりと広がる感じ。
カステラ生地のきめ細やかなしっとり感との相性が素晴らしい。
添加物などは使っていない。
口の中に1∔1=3の世界。
小倉シベリアとよく似ているが、よりこしあんの優しさが前面に出てくる。
「昔なつかし」は「昔ってすごいね」と語りかけたくなった。
個人的にはイチオシ。
【セカンドは横並び】
・小倉シベリア
これは煉り羊羹。羊羹部分が厚め(全体の約3分の1)。
「昔なつかし」よりも濃い煉り羊羹で、気持ち固め。「昔なつかし」よりもそっけない印象で、そこが魅力かもしれない。
・レモンシベリア
これも季節限定で、羊羹部分は白いんげんをベースにレモンを加えている。
レモンの皮の粒々感を残していて、食べた瞬間、新鮮なレモンの風味が立ってくる。
さわやかな味わいで、余韻もいい。
・ミルクコーヒーシベリア
羊羹部分は白あんに練りミルクを加えたもの。いわばミルク餡。
カステラ部分にはコーヒーが入っていて、コーヒー好きにはおすすめしたくなる。
これだけバラエティーに富んだシベリアを作っている和菓子屋さんは珍しい。
「もともとはパン屋だったんですよ。昔はパン屋がシベリアを作っていたらしいです」(女将さん)
シベリアの歴史は古く、明治時代末期から大正時代初期に誕生したというのが定説。
日本独自のもので、名前の由来は3層の見た目が雪原を走るシベリア鉄道に似ているところから来た説や日露戦争時に考案された説など諸説ある。
宮崎駿監督「風立ちぬ」の中にもこのシベリアが、当時のハイカラ(おしゃれ)なお菓子として出演(?)している。
特に昭和の初めころは大人気のスイーツだったようだ。
シベリア、この不思議な、時空を超えたノスタルジックな和洋菓子。
私にとっては岩槻でのミラクルな出会い、そう言いたくなった。
「関根製菓」
所在地 さいたま市岩槻区西町1-3-20