今回は煉り羊羹(ねりようかん)のミラクルについて書きたいと思います。
本物の煉り羊羹はめっちゃおいしい。
寒天を使った煉り羊羹(それまでは蒸し羊羹が主流だった)は、江戸時代寛政年間に日本橋で誕生した、というのが定説だが、今回ご紹介したいのが、ひょっとしてそこにまでたどり着くかもしれない、スーパーな煉り羊羹について。
それが私にとっては「青山紅谷(あおやまべにや)」である。
和菓子の世界でもいぶし銀の光を放つ名店の一つ。
つい先月、すぐ近い場所に移転したと聞いて、訪ねてみた。
モダンでしゃれた店構えに「紅谷」の木製の看板。あんこハートがときめいた。
京都の老舗の上生菓子屋に格負けしない店構え。店内の一角に、その煉り羊羹がさり気なく置かれていた。
メーンは宝石のような上生菓子だと思うが、私の関心は煉り羊羹。
ゲットしたのは以下の通り。
・煉羊羹 1本(1棹) 2050円
・ミニどら 270円
・最中 260円
・葛焼き 420円×6個(手土産として)
※価格はすべて税込みです
●あんヒストリー
「青山紅谷」の創業は大正12年(1923年)だが、遡ると小石川安藤坂にあった「紅谷本店」(すでにない)から暖簾分けしているようだ。ちょうどいらした3代目がルーツについてお話を聞かせてくれ、寒天を使った煉り羊羹を世に出した「日本橋 紅谷志津摩(べにやしづま)」(初代は喜太郎)がルーツかどうかは不明だそう。約10年から20年の空白があるという。だが、途中経過や徳川幕府との関係など、ここからは想像だが、何らかの赤い糸でつながっている、と思う。煉り羊羹一本の歴史がすごい。
【センターは?】
息をのむ藤紫色の透明感と深いコク
見た目:1本(1棹)のサイズは長さ180ミリ×幅55ミリ×厚さ30ミリ。重さは銀紙込みで385グラムほど。
包丁を入れたら、濃い藤紫色の本体が現れた。
光にかざすと、中心部から外側に向かって、透明度が増しているのが見て取れた。
凝縮感。やはり美しい・・・息をのむほど。
3代目によると、煉り羊羹の作り方自体は昔とそう変わっていないはずとか。
約5年前、江戸時代を通して評価の高かった煉り羊羹の名店「幕府御用菓子司 鈴木越後(すずきえちご)」(徳川幕府崩壊とともに閉店)の遺伝子を追った。富山にある「鈴木亭」にたどり着き、5代目が「当時と作り方はほとんど同じだと思います」と話してくれたことと照合する。
敬意を表して、日本橋「さるや」の黒文字でいただく。凝りすぎ? いえいえ、まだ不足しているくらいです(勝手にしなさい)。
味わい:小豆の粒子と寒天の配合が絶妙で、歯触りが柔らかい。すっ、すっと入っていく。
舌の上でさざ波のように広がる小豆の粒子が穏やかでやさしく、しかも甘すぎない。
口どけの上質感。
しばらく目を閉じたくなる(ずっと閉じてなさい)。
むしろすっきりとしたピュアな余韻が長く続く。
日本酒に例えると、金賞蔵の純米大吟醸酒に近いかもしれない(ハズしたかな)。
タイムマシンがなくても、江戸日本橋につながる美味の遺伝子を感じる。
私にとっては、ドえらい至福の時間となった。
【サイドは?】
ミニどら:約4年半前に訪問したときは売り切れていたが、今回は予約しておいたので、結果として5年越しの対面となった。
円に近い六角形の小さなどら焼きだが、ごらんの通り、横から見るとあんこ(小倉あん)の厚みが大胆。紅谷の焼き印がきれい。
しっとり皮、小倉あんの恐るべき風味。
小豆は北海道産厳選あずき、砂糖は鬼ザラメを使用。
甘さを抑えた、雑味のないあんこの素晴らしさ。
紅谷の実力がこの一点でもわかる。
最中(もなか):サクッとした皮種。香ばしさ。ここにもこだわりの深さを感じる。
中の大納言のつぶあんは艶やか(水飴と寒天を加えている)で、粒々感がしっかりあるのに、それがふっくらと柔らかい。甘さはやや強め。
煉り羊羹とミニどらよりも地味だが、いぶし銀の魅力がぎゅっと詰まっている。
おまけ:上生菓子「葛焼き」はこの日午後、和菓子スタジオ「あんこラボ」で行われたトークショーの手土産に6個だけ買い、小さなサプライズで披露した(下の写真)。だが、悲しいかな、数が足りずに、持参した私は食べるのを遠慮した。ちょっと残念😂。再戦はあるか。
《小豆のつぶやき》
▼今回はテーマが煉り羊羹なので、力が入りすぎて空回りしたかもしれない▼名店で修業を終えた4代目(息子さん)の姿も見えたが、立ち姿がよかった▼いぶし銀の3代目のお話は興味深く、羊羹の歴史の点と線をさらに追いたくなった▼あの大久保主水につながる江戸和菓子文化の粋も追いたいな▼空想しただけで幸せホルモンで頭がくらくらしてきた。
「青山紅谷」
所在地 東京・港区南青山2-17-11