週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

羊羹のシーラカンス?白い「ほんねり」

 

編集長「最近、羊羹(ようかん)がドライフルーツを練り込んだり、チョコレートとコラボしたりと、新しい和スイーツとして注目を浴びてるけど、今回取り上げるのは、その原点みたいな練り羊羹だよ。あん子も驚くぞ」

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あん子「また始まった。秩父小鹿野古代羊羹でしょ? 昔、編集長に連れられて、『太田甘池堂(おおたかんちどう)』をわざわざ訪問したでしょ。創業が享保3年(1803年)とかで、9代目がちょうどいらして、突然の訪問なのに、編集長と話が弾んだでしょ、忘れたの?

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編集長「今は息子さんの10代目が昔ながらの製法を含めて秘伝を引き継いでいるよ。それが本煉(ほんねり)でね。面白いことに白インゲン豆の本煉(ほんねり)なんだ」

 

あん子「へえー、小豆の本煉じゃないんだ。とらやの本煉とは違うわね。イメージが狂っちゃうわ。古代というのもなんか変だわ」

 

編集長「まあまあ落ち着け(笑)。2代目が江戸・日本橋に出て、煉り羊羹づくりを学んだようだよ。当時、日本橋幕府御用達の鈴木越後や紅谷志津摩(べにやしづま)船橋屋織江(佐賀町)、金沢丹後(上野)などが競って、煉り羊羹づくりに励んでいたんだよ。日本橋は羊羹の聖地だったと言える。今で言うと、高級和スイーツだったからね」

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あん子「みんな今と同じ小豆の煉り羊羹でしょ?」

 

編集長「まあね。でも京都に言わせると、煉り羊羹も京都が発祥地だと言うんだ。それまでは羊羹と言えば蒸し羊羹で、寒天を加えた煉り羊羹も発祥は江戸・日本橋ではなく京都で、桃山時代豊臣秀吉が鶴屋(その後駿河屋)に作らせたと言うんだ。それがどうもインゲン豆か白小豆を使い、食紅で紅色に着色し、珍しもの好きの秀吉が大いに喜んだらしい。それが事実だとすると、白いんげんの本煉こそが源流ということになる」

 

あん子江戸か京都か、ああめんどくさいわ。本題に戻って、その江戸時代から続く白い本煉を賞味しましょ」

 

編集長「では羊羹のシーラカンスとご対面しよう。コスパもいい。正座して拝むように」

 

あん子「編集長には足を向けるわ(笑)」

 

【今週のセンター】

古代秩父煉羊羹「本煉(ほんねり)」

一棹(税込み980円)

 

サイズは煉り羊羹の本流サイズで、長さ180ミリ、幅50ミリ、厚さ28ミリ。重さは約380グラム。

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北海道産インゲン豆を濾し、赤鍋で寒天と砂糖を合わせて、砂糖焼けしないように注意深くじっくりと煮詰め、冷まし、固め、パッケージに流し込んでいるようだ。

 

作り方は代々の秘伝

 

9代目によると、どうやら砂糖は上白糖を使用しているようだ。

 

佐賀・小城市「村岡総本舗」や福島・二本松「玉嶋屋」のような竹皮包みではないのが少し残念だが、作り立ての状態を維持するという意味では、これもありと思う。

 

なので、蜜が滴るような、テカリが十分にある。

 

光が差し込むと、独特の美しさが出てくる。

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口に含むと、なめらかな密度とねっとり感がまず来る。

 

ほどよい固さ。

 

思ったほど甘すぎない。ほどよいすっきり感。

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インゲン豆のきれいな風味が口の中に広がる。

 

目を閉じると、その余韻が遠い江戸へとつながっていくよう。

 

江戸人の舌の確かさに思いを致したくなる。

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9代目と話したときに、「村岡総本舗のような、表面が糖化した煉り羊羹バージョンも作って欲しいです」と言うと、「そういう方も確かにいらっしゃいますね。外にさらしておけば、表面が糖化しますよ。楽しみ方はいろいろあります」と白い歯を見せた。

 

なので、切り分けてから2日ほど空気にさらしてみた。

 

それがこれ。

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細かいひびがいい具合で、表面のじゃりっとした歯触りがとてもいい。中はねっとり。

 

個人的には私の好みはこちら。

 

ドリップで淹れたコーヒーともよく合う。

 

2代目は日本橋「甘林堂」で羊羹づくりを学んだそうだが、秩父小鹿野「甘池堂」の屋号を掲げたとき、遠い江戸日本橋に向かって、手を合わせたに違いない(想像だが)。

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小鹿野は現在はすっかり寂れて、人通りも少ないが、当時は西秩父の中心地だった。江戸時代から続く小鹿野歌舞伎も現存している。

 

その地で日本橋の煉り羊羹を作り続けているのはすごいこと。

 

時空を超えて、あんこの神様がほほえんでいる、と思う。

 

【今週のサブ】

柚子(ゆず)vs田舎(小豆)

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「柚子」は本煉に柚子を加えたもの。ゆずの風味がそよ風のようで、これは絶妙な味わい。ほんの少し色が濃い気がする(今回は詰合せを買ったので、田舎=小豆とともに3種類を堪能した)。

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甘さが控えめで、まったり感と口どけがとてもいい。

 

添加物などはむろんない。

 

田舎(小豆)は「夜の梅」で、とらやなどのものよりもどこか素朴。こちらも甘さが控えめで、小豆のつぶつぶが口の中でふくよかに広がる感触は悪くない。

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「田舎」と名付けるよりも、「小倉」とか「あずき」命名した方が個人的にはいいと思うが、いかがだろう? 洗練された味わい(田舎自体は大好きです)。

 

秩父10代にわたって暖簾を守り続けているとはね。

 

地道な仕事ぶりに、陰ながら応援したくなる。

 

所在地 埼玉・秩父郡小鹿野町小鹿野263

 

〈今回の購入〉

古代秩父煉羊羹 1棹+5個(3種類)入り

税込み2420円なり

 

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