あん子だってコロナが怖い。
だけど、負けない。
休業を余儀なくされている和菓子屋さんも多い。
今回取り上げるのは、熱海の老舗羊羹屋さん。
羊羹(ようかん)の名店として、知る人ぞ知る「本家ときわぎ」。
創業が大正7年(1918年)、現在4代目。本煉羊羹以下6種類の羊羹のレベルは高い。わらび餅やうぐいす餅など生菓子も人気で、すぐに売り切れる。
「千と千尋の神隠し」の舞台のような宮造りの古い店舗にまず圧倒される。
コロナが猛威を振るう前に訪ねたが、ここで見つけたのが、屋号をそのまま使った「常盤木(ときわぎ)」(6本入り 税込み600円)だった。
スティック状にした羊羹だが、わざと自然乾燥させていて、そのために表面が白く糖化している。
これがたまらない。
あの「羊羹の町」佐賀・小城市の「むかし羊羹」を思わせる珍品で、昔ながらの煉り羊羹のDNAを感じさせるもの、だと思う。
4代目のアイデアのようで、製法は伝統に乗っかっているが、デザインが新しい。羊羹をスティック状にするなんて。フツーはあり得ない。
表面のジャリジャリした歯ざわり、それでいて中は羊羹そのもの。北海道十勝産小豆の風味が寒天と煮詰まっていて、風化ギリギリの余韻を舌の上に残す。
控えめな甘さ。
本来は4種類あるが、私が行ったときはほとんど売り切れていて、本煉り1種しかなかった。
江戸寛政年間に日本橋で誕生した本煉り羊羹が、熱海でこういう進化を遂げていることに生みの親・喜太郎も泉下で驚いているに違いない。
不思議なことに、「本家ときわぎ」の向かい側に、小ぶりだが似た建物の「常盤木羊羹店」が暖簾を下げていた。ひらがなと漢字の違いも気になる。
同じ店か、暖簾分けか、大いなる謎を感じて、本家に尋ねたら「暖簾分けではありません。2代目の義弟が勝手に開いた店です。素材も作り方も違います」と素っ気ない。
老舗の和菓子屋ではよくある、ルーツは同じでも「まったくの別会社」ということかもしれない。
このあたりは深入りしないことにしている。
その「常盤木羊羹店」の目玉が「鶴吉羊羹」で、こちらも8種類ほどあるようだ。
一番人気の「橙(だいだい)」(1棹 税込み1300円)を買って、その後自宅に帰ってから賞味してみた。
熱海特産のみかん「橙」を使ったフルーツ羊羹で、黒いモダンな箱を開けると、金色の銀紙(表が金で裏が銀)が見えた。サイズは150ミリ×37ミリと小ぶり。
包丁で切ると、きれいな橙色の煉り羊羹が現れた。手亡豆(白いんげん)に橙が練り込まれていて、柑橘系の濃い香りがすっくと立ってきた。
半透明感と上品な甘さ。羊羹というよりも凝縮したゼリーのような印象。
モンドセレクション2013銀賞というのも自慢のようだが、私にはここまで来ると、もはや羊羹ではなく、マーマレードの新しいスイーツと言った方が近い気がする。
泉下の喜太郎もこちらの進化にも驚いているのではないか?
コロナのクラスターは願い下げだが、羊羹のクラスターは歓迎したい。
熱海にはいい羊羹屋がしのぎを削っている。どちらもコロナになど負けない、と確信している。
最寄駅 JR熱海駅から歩いて約12分