編集長「つつじのきれいな館林にすごい和菓子屋さんがあること、知ってるかな?」
あん子「すごいの意味がわかんない。歴史の古さ? チャレンジ精神? ひょっとして三桝家総本舗(みますやそうほんぽ)のこと?」
編集長「知ってた? 今の店主が11代目で、創業が江戸時代初期、寛永年間という首都圏でも指折りの超老舗だよ」
あん子「それがどうしたの? 古さだけなら京都にかなわないわよ」
編集長「まあまあ。ここの麦羊羹がすごいんだ。煉り羊羹に麦こがし(こうせん)を加えた羊羹で、他にはない代物。羊羹ルネッサンスの文化・文政年間に作り上げた可能性もある。羊羹好きにはたまらない香ばしさだよ。今回はこれをセンターにしたい」
あん子「もう一つあるでしょ? チャレンジというか、不思議系の甘納豆。小茄子(こなす)の砂糖漬け。豆類とかさつまいもならわかるけど、茄子(なす)をそのまま使うなんて、フツーはありえないわ」
編集長「見方を変えると、小ナスのあんこと言えなくもない。百年くらいの歴史があるようだよ」
あん子「信じられないチャレンジ力ね。聞いたことがない」
編集長「すごいって意味、わかった? 上皇后のご実家もこの館林だよ。女性宇宙飛行士・向井千秋さんもここの出。いい和菓子屋はいい土壌が必要なんだよ」
あん子「はいはい、能書きはいいから、早くどんな味か教えてよ」
【今週のセンター】
麦羊羹と小茄子の砂糖漬け
ちょっとだけ堅い話になるが、貴重だった砂糖が庶民にまで行き渡るようになったのは江戸中期以降と言われる。
徳川吉宗が8代将軍の座に就き、それまで外国から金銀並みの高値で輸入していた砂糖の国産化を推し進め、それがやがて庶民も味わえるあんこ文化へと花開いていく。現在と変わらないまんじゅうや大福餅、練り羊羹などがスイーツのスターダムにのし上がってくる。
三桝家総本舗の7代目が「麦落雁(むぎらくがん)」を作ったのは文政元年(1818年)頃。この地の特産品、大麦を自家焙煎し、砂糖を加えて練り上げ、それを菓子の木型に打ち込んだもの。京都の上菓子にも通じる干菓子の一種。今もこの店の看板商品でもある。
麦羊羹はその延長線上で誕生したと思う。
一番小さいサイズを1棹(220グラム 税込み550円)買い求め、自宅で賞味してみた。
昔からの銀紙に包まれた羊羹で、見た目も味わいも練り羊羹そのもの。
包丁で切ると、黒々としたテカリに蜜がにじんでいる。
甘さを抑えた本格的な練り羊羹で、ひと味違うのは麦こがしの香ばしさが口の中に広がること。
北海道産小豆で餡作り、寒天で煉り上げ、そこに麦こがしを加えるという作業がひと手間かかる。
黒糖羊羹に近い食感だが、それよりもやさしい味わい。
幸せ感マックス。
小茄子の砂糖漬けは「里みやげ」(3個入り 同450円)という商品名。
地場の小茄子を使用、秘伝の製法で砂糖漬けにしたもの。
包丁で切ると、琥珀色のあんこが詰まったように見える。
ねっとりとした食感の中にかすかに茄子の香りが甘く漂う。
形は雪をかぶった小茄子だが、茄子のイメージを超えている。
これって発見では?
地味だが、そのアイデア力に脱帽したくなる。
【今週のサブ】
栗甘納豆のきれいな余韻
大粒の国産栗を蜜煮し、上白糖でまぶしたもの。1パック5粒入り(同 450円)。
これもこの店の職人さんの腕がわかる代物。
きれいな、ピュアな黄色がいい歯ごたえとともに、口の中でスーッと溶けていく。
その感触が上質だと思う。
栗羊羹も食べたかったが、予算の関係で今回は我慢。
GWは「じっと我慢ウイーク」となってしまった。
所在地 「三の丸本店」群馬・館林市本町3-9-5