編集長「コロナ禍の中で虹を見た気分だよ」
あん子「また始まった(笑)。小雨の日に奇跡が起きたって大騒ぎしてた老舗飴屋さんの話でしょ? カラフルな手づくり飴(あめ)に囲まれて、すごい最中(もなか)を見つけたのよね。でも飴屋さんで最中ってちょっとヘンじゃない?」
編集長「まあまあ聞きなさい。ほおーとなるきれいな手づくり飴が30種類ほど。1袋100円~300円という安さ。実は数年前に買ったあんこ飴を不意に思い出して、買いに行ったら、季節商品なので3月いっぱいで終えてます、と言われてね。がっかり」
あん子「ま、日頃の行いの結果ね。でも拾う神・・・編集長の場合は拾うあんこ神(笑)」
編集長「ふと見ると、ガラスケースの中から最中がひょっこり手を挙げたんだよ。カラフルな飴の星座の奥にいぶし銀の最中が、いたんだよ」
あん子「その手は食わない(笑)。でも、確かにいぶし銀ね」
編集長「皮だねから中の粒あんまでちょっと驚くレベルだよ。もちろんあんこも手づくり。北海道産大納言小豆と水飴、寒天の配合が素晴らしい」
あん子「私も正直、びっくりしたわ。ただの飴屋さんじゃない。塩加減が本当に絶妙。こういう宝石箱のような希少な和菓子屋さんもあるから日本も捨てたもんじゃない。虹ってこころざしという意味もあったのね」
編集長「あん子もようやくわかってきたね。これまで随分と名店の最中を食べてきたけど、コスパも含めると、意外性という意味でこの最中はある種の別格だと思う。アーティストに例えると、ローリン・ヒルかな」
あん子「また外した(笑)。前置きはいいから早くレポートしてよ」
【今週のセンター】
いぶし銀「ニシダが最中」
(税込み1個90円 5個化粧箱入り550円)
まず皮だねのしっかり感と香ばしさが上質。名店といわれる最中のなかには掴んだ瞬間、破れ落ちるものもあるが、この皮だねにはその心配はない。
隙のない丁寧な作り。
サイズは縦60ミリ、横50ミリ、厚さ25ミリ。重さは59グラム。
中のあんこは濃厚なテカリを発し、噛んだ瞬間、煮詰められた大納言小豆のねっとりとした甘さが口いっぱいに広がる。
塩が強めで、それがあんこの美味さを引き立ている、と思う。
塩の使い方が名人芸だと思う。
この店の基本、ピュアな水飴が寒天とタッグを組んで、大納言あんこに魔法をかけている・・・そんな感じかな。
飴屋のあんことは思えない、こだわりの強い、濃密なあんこで、店主の職人としての意識の高さを思わせる。
今回はシャレた化粧箱入り(5個 税込み550円)を買ったが、バラ売りもしてくれる。
・おまけの現地レポート
埼玉県立熊谷女子高近く。埼玉では有名な和菓子チェーン「梅林堂」の看板も見える。今回の舞台はそこではない。
「古伝 ニシダ飴」の看板がどこか遠い江戸・熊谷宿の匂いがする。懐かしい匂い。
創業が昭和3年(1928年)、現在3代目。店の外観と白地の暖簾が民芸的で、敷居の高さを感じない。
垢ぬけしたいい店構えだと思う。
和菓子の中で「飴」は歴史が古く、戦国時代にはポルトガル経由で有平糖(あるへいとう)が入ってきている。
「ニシダ飴」のルーツが京都にあるのか、江戸にあるのかは不明だが、店内に並んだ華やかな色や形の飴を見ると、はんなりと小粋、伝統と新しさを感じる。
3代目が進取の気性に富んだ職人さんで、抹茶生チョコまで手づくりしている。守備範囲が広い。
残念ながら店主は不在で話を聞けなかったが、店頭にいる美人奥さんが「昔からの作り方を守っていて、そこにオリジナルを加えているようです。秘伝です(笑)」。
飴の砂糖は基本的にグラニュー糖を使用しているようだ。
「ニシダが最中」の他に熊谷の伝統菓子「五家寶(ごかぼう)」(1袋 税込み200円)ユニークな飴「らっきょう飴」(1袋 同200円)、「さいだー飴」(同 200円)、「しょうが飴」(同100円)を買った。
添加物は使わない、伝統的な製法がよくわかる、手の温もりのする味わいで、まるで駄菓子屋のような安さを考えると、この店のポリシーが見えてくる。
一つ一つ丁寧なパッケージにも店主の心意気が伝わってくる。
・おまけのおまけ
編集長「この店に初めて行ったのは実は5年ほど前なんだよ。そのときは昭和の飴屋さんと固定観念で見てたので、まさか最中がこんなにすごいものとは思ってなかったんだ」
あん子「編集長失格ね(笑)。でも、今回、改めて、すごい店だとわかったんだから許してあげてもいいわよ。今では和菓子の中で飴の立ち位置は決して高くはないけど、この店を知って、私も考えを改めなくっちゃ」
編集長「だから虹を見たって言ったでしょ?」
あん子「NiziUもいいけど、ここの虹もかわいい(笑)。歴史的にも飴は和菓子の本流の一つだともわかったわ」
編集長「ニシダはニジダに通じる」
あん子「ダジャレ合戦はやめましょ。コロナ禍の日本にも早く虹がかかって欲しいなあ。ところで、今何時?」
★「ニシダの飴」
所在地 埼玉・熊谷市中西1-1-16
最寄駅 JR高崎線熊谷駅から歩約12~15分