今回のみちのくあんこ旅は予想を超えて、実り多いものとなった。
中でも津軽半島の城下町・弘前市「大阪屋」はその歴史とともに私のあんこハートに突き刺さった。今も抜けない。
創業がびっくりの寛永7年(1630年)。現在13代目で、ルーツは豊臣家に仕えた武士にまでさかのぼる。
初代は大坂冬の陣・夏の陣に敗れ、縁故の津軽氏を頼って、弘前まで落ち延びてきたという(日本海ルート=北前船ルートで?)。
豊臣秀吉の和菓子好きはよく知られているが、その遺伝子が津軽の地で、400年の時を超えて生き続けていることに言葉が出ない。うるうる。
しかも今も素晴らしい仕事ぶり。
立派な店構え。「大阪屋」の渋い金文字が異彩を放っていて、私をここまで連れてきてくれたことに感慨も深まる。
と、前置きが長くなり過ぎたが、暖簾をくぐると、京都にも引けを取らない上生菓子や焼き菓子に目移りがしたが、予算や諸事情で、迷った末に、私が選んだのは以下の5品。
★今回ゲットしたキラ星
どら焼き 183円(税込み)
松風饅頭 151円(同)
栗饅頭 162円(同)
そば餅 151円(同)
チョコレート羊羹
1棹1242円(同)
●あんヒストリー
品格のあるお顔立ちの13代目に少しだけお話を伺うことができた。京都の老舗「亀屋清永(かめやきよなが)で4年間修業してから弘前に戻って家業を継いでいる。祖父の代(11代目)までは大阪最古の和菓子屋(今も続く「高岡福信」と思われる)で修業したそうで、驚きが広がる。ここは秀吉の料理番だったお方が創業。代々酒饅頭や栗饅頭、生菓子などを今も昔のままの製法を守りながらつくり続けている。偶然だが、私は約4年近く前にここを訪ねて、運よく17代目店主に取材している。なので不思議な縁を感じさせられた。
【センターは?】
どら焼きと松風饅頭の驚き
すべてが高い技術と意思を感じるレベルで、こう言っては何だが、ガイドブックなどで紹介されているよりも珠玉のオーラを感じた。ホントです。
中でもどら焼き(上の写真)と松風饅頭(まつかぜまんじゅう、写真一番右)をセンターに持ってきたい。
どら焼き:ピタッと閉じた焼き印の入ったどら皮、大粒小豆の柔らかな密度。何かが違う。
とにかく見ていただきたい。
蜜が滲むような深い焼き色。スキがない。
東京のうさぎや、亀十などどら焼きの名店とは少し違っている。
小ぶり(直径約70ミリ×厚さ30ミリ、重さ約71グラム)だが、グラマーで、真ん中で割ると、自家製つぶあんの濃い厚みがドドと迫って来た、
●味わい どら皮のしっとり感と中のふくよかなつぶあんがほんのり塩気とともに口の中で広がる感覚が素晴らしい。正直に言うと、まさか弘前でこのようなどら焼きに出会えるとは想定外だった。
あんこは北海道産大粒小豆×白ザラメ。小豆の柔らかな粒感を残す炊き方で、上質の小倉餡のようでもある。小豆の風味が立ってくる。
13代目は気さくなお方で、作り方がちょっと違うんですよとおっしゃり、手焼きしたどら皮が熱いうちににあんこを乗せて、手作業で蓋をするそう。なので、貝殻のように端がピタッと締まっている。このこだわり方がすごい、と思う。
「松風饅頭」は白味噌を加えた小麦粉ベースの皮とこしあんの不思議なマリアージュにあんこころが持っていかれそうになった。
〈あんポイント〉松風は小麦粉に京味噌を加えた和菓子で、京都「松屋常盤」が有名だが、これはそれを応用した弘前屋のオリジナル饅頭だと思う。ちょこんと乗ったクルミとたっぷりのこしあん、それにほのかな山椒(隠し味)が混然となって押し寄せてくる。
これは個人的には驚きの美味さだった。
白味噌の塩気が柔らかな、いいアクセントになっている。クセになる味わい。
【サイドは?】
栗饅頭:中のあんこは甘さ控えめの白あん。北海道産手亡×白ザラメ。俵型の王道の栗饅頭で、白あんの中に栗の粒が入っている。口どけがとてもいい。
そば餅:「餅」と表記しているが、焼き菓子で、そば粉を加えた小麦粉の皮は白っぽく、クッキーのように固め。中は半生のこしあん。噛むとサクサクと崩れ落ち、そば粉の風味が来る。こしあんはやや甘め。
【別枠は?】
チョコレート羊羹:チョコレートの風味がふわっと広がる棹羊羹で、見た目は本煉り羊羹のようだが、意外なことにベースは白あん(白いんげん豆)。
つまりチョコレートを煉り込んだ羊羹。つくり上げたのは約5年前とか。大阪屋の新しい試みで、女性ファンが多い。13代目は伝統を守りながら、新しい試みにも取り組んでいることがわかる。
《編集長のつぶやき》
▼日本の老舗の中でも有数の歴史と質を維持している姿は驚きでもある▼初代が豊臣方(大阪方)に与したことで現在につながっていることにも驚かされる▼江戸時代からの板菓子「竹流し」でも知られるが、こうした店が妥協せずに、時代に棹さすように、さらには明日につながる道を歩んでいること▼無添加素材へのこだわり▼暖簾の重みを改めて考えずにはいれない。
「御用御菓子司 大阪屋」
所在地 青森・弘前市本町20