「羊羹ファンタジア」(会津若松・長門屋)や「秋襲(あきがさね)」(京都・鶴屋吉信)「りぶれ」(山形市・佐藤屋)など創作ようかんの世界がきらめいている。
その星々の中で異彩を放っているのが「一枚流し麻布あんみつ羊かん」である。
東京・西麻布「和菓子司 昇月堂」(しょうげつどう)の、これは傑作ではないか?
「ユニークなようかんがあるよ」との情報は知ってはいたが、何となく「受け狙い」の匂いがして、近づくのを後回しにしてきた(失礼しました)。
たまたま渋谷に用事があり、時間があったので、その足で西麻布まで足を延ばした。
思い込みと勘違いは恐ろしい。
まずはとにかく見ていただきたい。
夜空にあんみつの星々?
なぜか「解剖台の上のミシンとこうもり傘の出会いのように美しい」というロートレアモンの詩の一節が頭に浮かんだ(ン?)。つまり、フツーはありえない出会い。
そんな表現をしたくなるほど、あんこワールドで起きた奇跡の一品と言いたくなる。あまりにシュールな創作ようかん。
まず目が奪われ、半信半疑で賞味すると、その不思議な食感と美味さに「ほお~」が3回は出た。ビックリマークも三つほど。
創業が大正7年(1918年)、これをつくった「昇月堂」3代目の発想と技術力。
広尾駅から歩いて10分ほど、坂の多い、歴史のある閑静な街の一角に、和のモダンと表現したくなる瀟洒(しょうしゃ)な店構えが見え、思い切って入ると、ここが上生菓子屋さんでもあることが肌でわかった。
私が大好きな下町とは趣が違うが、別種の本物感が伝わってくる。
ずいぶん昔、私はこの近くでコピーライターの駆け出しだったことをつい思い出した。
あん子「そんなどうでもいいこと(笑)。早く本題に移ってくださいな」
編集長「ごめん。では解剖台の上に奇跡のようかんをのっけてみよう(笑)」
・今回ゲットしたキラ星
一枚流しあんみつ羊かん 1箱1188円(税込み)
麻布どら焼き蕎麦 1個270円(税込み)
【本日のセンター】
すべて自家製「一枚流しあんみつ羊かん」
一枚流しとは、箱に羊羹を流し込んだもので、有名なのは福井の水ようかん。枠流し(煉り羊羹)を切り分ける棹ものよりも簡素で、賞味期限は短い。
それにあんみつをアレンジするとはびっくり。
昇月堂3代目のオリジナル。
箱の大きさは約155ミリ×110ミリ×15~20ミリ。
シャレた紙箱をしずしずと開けると、これって夜空の宝石箱みたい。
こりゃあすげえ!
ピンクと白の大きめの求肥が3個ずつ。
蜜煮した大栗も3個。お月様が三つぽっかり。
サイコロ切りの透明な寒天(こちらも大きめ)がざくざくと惑星のごとく浮かんでいる。
その下に広がる小倉色の、きれいな羊羹(長四角の宇宙)。
よく見ると、ふくよかに蜜煮した丹波大納言がつややかに隠れている。
切り分けてからショータイム(賞味タイムが正しい)。
羊羹自体は水ようかんに近い、みずみずしいなめらかな舌触り。ほどよい上品な甘さ。
自家製寒天のきりっとした食感が、なめらかな流し羊かんと絶妙なコンビネーションで、そこに求肥や大栗が代わるがわるやってきて、舌の上から脳天(夜空)へと抜けていく・・・そんな感覚。
買う前の受け狙いでは?という思い込みが恥ずかしい。
想像を超えた上質な美味さと言うほかない。
丹波大納言の余韻がしばらく残る。
ベースのこしあんがここまでクリエイティブに変換していることに、ここは脱帽。一歩下がって敬意を表することにしよう。
【サイドの一品】
どら焼きの真珠「麻布どらやき蕎麦」
上生菓子は日持ちがしないので、「賞味期間は4日間です」という「麻布どらやき蕎麦」を買い、翌日の賞味となった。
そば粉のどら焼きとは珍しい。
見た目は確かにそば粉の色。グレーがかったきつね色の焼き色。
大きさは左右約85ミリ。全体の厚さは約20ミリ。どら皮は薄め。重さは89グラムほど。
中のあんこは丹波大納言小豆がたっぷり。中心部にはぷにゅっとした求肥(ぎゅうひ)がひそんでいた。
ひと口め。
どら皮のしっとりとした食感がとてもいい。そば粉のいい風味がほんのり。
そば粉に少し米粉を加えているようだ。
丹波大納言あんこは艶やかでふっくらと柔らかい。控えめな甘さ。
3代目によると、砂糖は鬼ザラメを使っているようだ。
こだわりの強い、上質のあんこだと思う。
そば粉のどら皮と求肥と三位一体の絶妙なコラボで、実にうまい。
うさぎや系の正統派どら焼きとは違う、抹茶が合いそうな、異端のどら焼きだと思う。
しかも技術の裏打ちをしっかりと感じる。
個人的な考えだが、異端が正統を超えることだってある(意味不明?)。
反省を込めて・・・気を付けよう、思い込みと勘違い。
今回は意外性にやられてしまった。
「和菓子司 麻布昇月堂」
所在地 東京・港区西麻布4-22-12