大阪市内で一番古い和菓子屋へ足を運んだ。
目的は一に酒饅頭、二に栗饅頭。
この栗饅頭に驚かされたが、それは後半に・・・。
予想よりも小さな、ある種、シンプルな店構え。茶色の暖簾が渋い。大阪流わびさびの佇まい。
それが知る人ぞ知る「御菓子司 高岡福信(たかおかふくのぶ)」だった。
創業が寛永元年(1624年)。当主は驚きの17代目。ちなみに虎屋の当主も17代目。
初代が豊臣秀吉の点心御用を務めていた、というから気が遠くなってくる。
京都も凄いが大阪も侮れない。
その酒饅頭がこれ。どないでっか? 1個税込み184円。
皮はもち米と糀(こうじ)を使い、すべて手作り。甘酒から作るので、完成まで約2週間ほどかける。日光「湯沢屋」(江戸時代後期創業)も同じ作り方だったことを思い出した。本物は手間ひまを惜しまない。
早朝、蒸かし立てを店内でいただくことにした。17代目は気さくなお方で「狭いですけど、ここでよかったらどうぞ、どうぞ」と隅にある小さな縁台をすすめてくれた。
創業当時からほとんど同じ製法で作られているそうで、蒸かし立てというのに表面の皮は表面張力で、プチッとしていた。
ふうふうしながら、二つに割ると、糀(こうじ)のいい香りがぷーんと来た。中はこしあんがたっぷり。大阪ではなくここは大坂と表記したい。
ふくよかなこしあんで、雑味がない。甘さはほどよい。しっかりとした食感の皮の存在が強め。
小豆は「備中大納言です」と聞いて、素材へのこだわりにハートを揺さぶられてしまった。17代目のさり気ない矜持(きょうじ)。砂糖はザラメで、手作業で練り上げている。
もう一品、栗饅頭がすごかった。丹波栗を丸ごと一個蜜煮したものを使い、それを丹波白小豆が包み、焼かれた皮の表面はつややかなテカリが凝縮した存在感を周囲に放っていた。卵黄の塗り方に手の気配。一個一個、塗り方が微妙に違う。
自宅に持ち帰ってから、改めて眺め、正座して菓子楊枝(ようじ)でいただく。
3個入り、箱代込みで1250円(税別)。安くはないが、その歴史に敬意を表したい。
どっしりとした存在感。重さを量ると1個64グラム。普通の栗饅頭の2倍近い大きさと重さ。約400年の重み。
口に運ぶと、ほっこりとした歯ごたえで、ほろほろと口の中で溶けるよう。蜜煮した丹波栗の美味さ。白小豆の穏やかな風味が重層的に追いかけてくる。
主役の丹波栗は形がしっかりあるのに、ホクホクと崩れ落ちてくる。しっとり感ときれいな甘みがじんわり来る。上質のマロングラッセに通じる味わい。
これまで食べた中では虎ノ門岡埜栄泉の栗饅頭が一番の好みだが、これは別格だと思う。地味系の別格。
17代目と話していて感じたことだが、素材に昔からの最高峰を使い続け、手作りにこだわり、それを緩める気配は見られない。
伝説の南蛮菓子「鶏卵素麺」やカステラも作り続けている。それらがよもぎ餅などと並んでさり気なく置かれている。
かような店が暖簾を下げて、今日も大坂の一角で、和菓子を作り続けている。ある種のミラクルだと思う。