「酢まんじゅう」と聞いて、「えっ?」と聞き返したくなった。
約5年前のこと。
秩父で和菓子屋巡りをしていて、たまたま入った店で「酢まんじゅうは食べましたか? 秩父独特のまんじゅうで、まあ酒饅頭の一種です。酒種が酢になりかける寸前の状態で使う。香りも独特で中のあんことの相性がとてもいいんですよ」と教えてくれた。
字面から「酸っぱいまんじゅう」をつい連想、思わず顔をしかめそうになったが、実際に食べたら、それがとんだ誤解だとわかる。
私にとってはまさかのお宝まんじゅう。
今回はこの珍しい酢まんじゅうを食べ比べてみようと思い立った。
秩父地方にはこの酢まんじゅうの名店がいくつかある。
少々迷った末、選んだのはこのディープな3軒。
●ふくろや(長瀞町) 168円
●亀沢屋(皆野町) 140円
●みずほの里(皆野町)120円
※すべて税込み価格です。
★あんポイント 酢まんじゅうがいつから秩父地方にだけ存在するのか、よくわからない。小麦粉ベースの酒饅頭の一種と考えると、江戸・明治から存在していたとしても不思議はない。店によっては「すまんじゅう」とひらがなで表記するケースもある。中のあんこはつぶあんが多い。自然発酵なので、糀の香りと発酵酢の香りが悩ましい。食感はほとんど酒饅頭。日持ちしない(翌日には固くなる)のでその日のうちに味わう必要があるが、時に病みつきになる美味さだと思う。
【センターは?】
モンスター級「ふくろや」の皮とつぶあんの合体
たまたま個人的な好みでセンターに選んだのは「ふくろや」。
3軒の中でサイズがひと回り以上でっかい。
ごらんの通りのサイズ感(一番左がふくろや。真ん中が亀沢屋、一番右がみずほの里)。
それぞれレベルが高いので、大いに迷ったが、今回はモンスター級の大きさとあんこの素朴な衝撃から「ふくろや」を選んでみた。
ふくろや:サイズは約110ミリ×100ミリ。重さは168グラム。
デカさが中華街のあんまん並み。
経木(きょうぎ)に直置きしている点も木の香りまで取り込んでいるようで、くすぐられる。
つやつやとした皮。ふっくら感。ほんのりと酸味(バルサミコ酢のよう?)を感じる。
皮のいい匂いとふわふわもっちりの食感。
予想外の美味さ(失礼)に「ん?」となってしまった。
少々手にくっつく。
中のあんこは自家製つぶあん。北海道産小豆×上白糖。
つぶあんが素朴に洗練されていて、いい小豆の風味が急回転で広がる。
口中ビッグバン(笑)。
これはクセになるなあ。
売り切れごめんなので、あらかじめ予約しておいたのがよかった。
【サイドは?】
亀沢屋:大正10年(1921年)創業の秩父でも有数の老舗和菓子屋さん。
ふくろやよりも小ぶりだが、艶やかな皮はもっちりと密度が濃い。糀(こうじ)の香りが強めで、酒饅頭好きにはたまらないと思う。
サイズは約80ミリ×70ミリ。重さは77グラム。
中のつぶあんは渋切りをしっかりとした高レベルのあんこ。
北海道産小豆×グラニュー糖。
切れのあるすっきりとした味わい。
素朴よりも洗練を感じさせる酢まんじゅうだと思う。
みずほの里:一番小さいが、自家製つぶあんの塩気が効いている。
サイズは約70ミリ×70ミリ。重さは62グラム。
木綿のような皮の色、テカリも淡い。
皮はやや固めで、もっちり感と弾力が特徴。
糀(こうじ)と熟成酢の香りがやさしい。
中のあんこはこだわりの強いつぶあんで、口に入れた瞬間、塩気が来る。
それがクセになりそうな。
小さい分価格も安い。
賞味期限がその日中なので、この店のもう一つの売り「茶まんじゅう」と合わせて2個ぺろりと行けた。
《小豆のつぶやき》
▼酢まんじゅう、すまんじゅう。初めて出会った時の驚きが、恐るおそる食べるとすぐに「これはイケる。うめえ」と変化した▼秩父出身、バナナマンの設楽さんが酢まんじゅうのファンだとか▼レア過ぎて埼玉でも知らない人が多い▼ワイン⇒バルサミコ酢の例を見るまでもなく、お酒の発酵の進み方で別の美味に変換する▼そこを利用したレアなまんじゅうの存在はもっと注目されてもいい。
「ふくろや」
「亀沢屋」
「みずほの里」