高くて美味いは当たり前、安くて美味いは?
つつじが岡公園のツツジを見た帰りに、館林駅前にある老舗和菓子屋さん「伊勢屋本店」に立ち寄った。
下町の和菓子屋さんのようないい店構え、「だんご」と「いちご大福(季節限定)」の幟(のぼり)が見えた。
磨き抜かれた渋い木枠のショーケースに美味そうな生菓子類がずらりと並んでいる。全体的に小ぶり。
いい和菓子職人が隠れている気配。
驚かされるのはその価格。
草もち(つぶあん)80円、バターどら焼き(110円)、ゆでまん(つぶあん)70円・・・すべて税込み価格。目を二三度こすりたくなる。
いなり(100円)、のり巻き(50円)まである。
ざっと見たところ、一番高いのが「季節限定 いちご大福」。160円の表記。それでも驚きのコスパだと思う。
今回ゲットしたキラ星
バターどら焼き 110円(税込み)
草もち(つぶあん) 80円(同)
ゆでまん(つぶあん) 70円(同)
いちご大福(つぶあん)160円(同)
●あんヒストリー
創業は明治40年(1907年)。現在4代目。店にいらした女性スタッフ(女将さん?)によると、もともとはパン屋さんで、昭和32年(1957年)に和菓子屋に転業。基本のあんこは「北海道産小豆」(ホクレン)を使い、こだわりの強い和菓子を朝早くから作り続けている。コスパ的にも信じられないほどの朝ナマの小世界を守り続けている。ここのバターどら焼きは内閣総理大臣賞を受賞している。
【センターは?】
つぶあんの上質と旬のいちご+柔らかな餅
ここまでポリシーを感じられる中から一品を選ぶことはほとんど不可能だが、そうも言ってられない。
迷った末、この時期限定の「いちご大福」を選んだ。
外観:サイズは約55ミリ×50ミリ×高さ40ミリ。
餅粉がほどよくかかっていて、手に持つと存在感が伝わってくる。重さを量ったら、約70グラムちょっと(本体)。大きくはないが小さくもない。
餅の柔らかさが持った瞬間わかる。求肥餅(ぎゅうひもち)だと思う。
なので包丁で切るのにかなり苦労した。
断面はごらんの通り。
味わい:餅粉がなければ手にくっつく。
つぶあんがほどよい甘さで、北海道産小豆のいい風味が食べた瞬間、口の中でふわっと広がる。
いちごはその時々のベストを使い、今回は甘みの強い、地場産のいちご。
つぶあんは渋抜きをしっかりとしていて、呉(小豆の中身)と小豆のかすかな皮が絶妙に溶け合っている。ほんのりと塩気も感じる。
これはいいあんこ、と直感する。
みずみずしい、切れのいいあんこ。
食感が上生菓子屋のものと変わらない。
砂糖はグラニュー糖を使っているようだ。
それに柔らかな求肥餅が羽衣のように絡んでくる。そんな感じ。
柔らかすぎて手にくっつく。
価格を考えると、ちょっと信じられないレベルについウルウルする。
館林は美智子上皇后のルーツの町でもあることを思い出す。
ローカルでこの価格と質、店主によほど揺るぎのないポリシーがないととても維持できない世界だと思う。
お客が混みあってきたので、お話を聞くことができなかったのが残念。
【サイドは?】
●バターどら焼き
平成元年(1989年)に先代が作り上げ、内閣総理大臣賞を受賞している。小ぶり(左右70ミリ)。
手焼きのどら皮はきれいなきつね色で、小麦粉(館林産百年小麦)と卵、蜂蜜のバランスがいい。
甘さ控えめなつぶあんとバターの香ばしい塩気。
野球に例えると、渋い3割打者って感じかな。
●草もち
税込み80円とはとても思えない。
つぶあんのボリュームも十分にある。
いちご大福と同じつぶあん。
手抜きが1ミリも見えない。
●ゆでまん
中のつぶあんは同じもの。茹でまんじゅうは群馬や結城市(茨城)など、主に関東のローカルに多い昔ながらの郷土菓子。
ここのゆでまんもつぶあんを小麦粉を練った皮で包んで熱湯で茹で上げたもの。
つるッとした歯触りが特徴。
やはりつぶあんの美味さが印象的。
1個70円でこの味を楽しめるのはありがたい。
すべてに店主のポリシーと職人の手を感じる。地味だが、いい仕事をしているな、と思う。
店の隅々まで清潔な雰囲気といい、手ごろ価格への強いこだわりといい、これはもはや簡単には真似できない文化遺産レベルだと脱帽したくなる。
〈編集長のつぶやき〉
▼このレベルでこの価格に何よりも驚かされた▼いなりとのり巻きも京都風のいい味わい▼名代だんごは今回は売り切れていて食べれなかった▼あんこの美味さに店のポリシーがさり気なく現れている▼安ければいいというものではないが、ローカルにはよき昭和が隠れている▼あんこの神様に感謝したくなる。
「伊勢屋本店」
所在地 群馬・館林市本町2丁目3-40