江戸・明治から続くみちのくの伝統駄菓子屋さん。
その存在が今、とても希少なものになっている。
和菓子界のレッドリスト、と心配する人も多い(私もその一人)。
数年前までは東北4大駄菓子(盛岡、鶴岡、仙台、会津若松)がこの世界では知られる存在だったが、昨年秋、鶴岡の「梅津菓子舗」が350年の歴史にピリオドを打ち、会津若松「長門屋」は会津駄菓子づくりを止め、追い打ちをかけるように仙台「石橋屋」は今年5月に閉店している。
今回ご紹介するのは、その意味で希少度がますます増している元祖仙台駄菓子本舗「熊谷屋」(くまがいや)の渋いキラ星である。
セピア色の店構えが何とも言えない。
ここに銀色のシーラカンスが隠れているかもしれない。
●今回ゲットしたキラ星たち
あん入りしほがま 1本594円
抹茶しほがま(あん入り)同594円
あん玉 1個150円
どら焼き 1個170円
仙台駄菓子(13個袋詰め)713円
※すべて税込みです
【センターは?】
あん入りしほがま、紫蘇(しそ)か抹茶か
あんこを入れたしほがまは他の和菓子屋さんでも作っているが、元禄時代から代々続く無添加づくりはひと味違うのではないか。
〈あんポイント〉しほがまって?
古くから日本に存在する押し菓子で、らくがん状のもち米種に青紫蘇(あおじそ)を加えて木型で押して仕上げたもの。塩釜、塩がま、しほがまと表記はいろいろ。仙台エリアの塩釜神社がルーツと言われている。
★あん入りしほがま:ひと口で手が止まらなくなる?
見た目 写真でごらんの通り、厚みのある板かまぼこの形で、切込みが7つほど入っている。よく見ると点々と青紫蘇が見える。
味わい 中は半生のこしあん(自家製)。白色のらくがん状の生地は口に入れると、ぼそぼそと素朴に崩れ落ち、甘く混じり合い、同時に穏やかな塩と紫蘇の風味が広がる。
これは・・・イケる。
正直に言うと、らくがんはどちらかというとどうしても食べたいものではない。
だが、金沢で「諸江屋(もろえや)」の生らくがん「加賀宝生(かがほうしょう)」を味わってから、意識に変化が起きた。
オーバーに言うと目からうろこ。「これって落眼?」と表現したくなった。
お・い・し・い。
この熊谷屋の「あん入りしほがま」も生地の塩気(藻塩を使用)と半生のこしあんが見事に合体している。
合わせ技一本、口どけがとてもいい。
唾液がどんどん出てくる感覚。
青紫蘇の風味が効いている。
仙台湾の潮風が舌の上に運ばれてきたような気さえする。
★抹茶入り:抹茶の風味も悪くない
こちらは紫蘇ではなく抹茶を加えている。
中の半生こしあんは同じ。
甘すぎないしっとり感。
相性が悪いはずはない。
1本のサイズ(約160ミリ×55ミリ)はほとんど同じだが、重さを量ってみたら、こちらの方が少し軽い(パッケージ込みで180グラム)。
●あんヒストリー
「元祖仙台駄菓子本舗」と掲げているだけあって、創業が元禄8年(1695年)と仙台でも一二を争う古さ。現在10代目。「創業時からこの場所で駄菓子をつくり続けていると聞いてます」(店のスタッフ)。創意工夫を加え、つくった駄菓子は約60種類に及ぶとか。すごいこと。
【サイドは?】
あん玉(あんこだま):これは生菓子なので賞味期限は短い。寒天の薄い膜。あんこはつぶあんとこしあんをミックスしている。冷蔵庫で冷やしてから食べると、沖縄産黒糖の風味があんこに絡みつくようで、舌の上ですーっと消えていく。
黒パン:袋詰めの中で「おっ」と思ったのが黒パン。駄菓子のベースは主に黒糖、大豆、小麦粉などだが、これは黒糖と小麦粉の焼き菓子。無添加づくり。素朴な黒糖生地の美味さがストレートに来た。
《小豆のつぶやき》
▼江戸時代後期から砂糖が一般化してくるが、庶民の口に入るのは白砂糖ではなく黒砂糖が多かったようだ▼駄菓子というと「安くて雑な和菓子」というイメージが強いが、本物は「駄」ではなく「上」の風味があると思う▼コスパは高く、敷居は低い、こだわりの強い駄菓子文化を守りたいな。
「熊谷屋」
所在地 仙台市青葉区本町通二丁目2-57
〈甘~い緊急告知〉三井住友海上のウェブメディア「くるまも」に「あんこの達人」(こそばゆいですが)として、東京からクルマで行ける和菓子の穴場スポットを紹介しています。「最新記事」の3番バッターです。よかったら覗いてみてください。