西日本あんこ旅で立ち寄りたかったのが、松江の超老舗「御菓子司 一力堂」。
コロナで都道府県にまたがる移動ができなかった期間、私はお取り寄せでわがままなあんココロを何とか落ち着かせようとしていた。
そのときにこの「一力堂」から「ハーンの羊羹」や「しぐれ納豆」などを取り寄せ、それを書かせていただいた。
島根・松江は京都・金沢と並び称される、和菓子好きには避けて通れないあんこ文化が渋く発光している特別なエリア。

中でも一力堂は創業が宝暦年間(1751~1764年)という西日本でも有数の歴史を刻む和菓子屋さんで、茶人大名・松平不昧公との縁も深い。

ようやく到着。時間が止まったような蔵造りの店構え。侘び寂びの気配。それゆえ私のあんココロがゆっくりと立ち上がってくるのがわかった。
ノスタルジックが止まらない。
ここにはあずき羊羹を薄いカステラ生地でサンドした「錦小倉」がある。
店内に足を踏み入れると、やや薄暗い、長い歴史をくぐり抜けてきた、木枠の菓子ケースが視界に入った。渋いオーラ。

よく見ると、上生菓子や数種類の羊羹、不昧公好みの焼き菓子類など、老舗の力を秘めた和菓子類が並べられていた。
ややご年配の女将さんがいらっしゃって、気さくに応対してくれた。
★ゲットしたキラ星
錦小倉(特寸サイズ)994円
朝汐羊羹(1本)962円
地伝酒どら焼き 238円
※すべて税込みです。

【センターは?】
錦小倉:超ド級のあずき羊羹+薄いカステラ生地
この棹菓子が明治の初期から松江に存在する棹菓子、と聞いて驚きは深まった。
前々回レポートした「風月堂」の「八雲小倉」と同種の棹菓子で、松平不昧公好みの中からつくられた、ある種、横綱クラスの圧巻を感じさせる伝統菓子。
とにかくそのお姿を見ていただきたい。

「紅葉の渓流に映える風情」と説明されていて、ド迫力だけではなく、渋好みの美までがこの一本の中に閉じ込められている。
特寸(半棹)なので、サイズは約140ミリ×45ミリ。厚みは約40ミリ。重さは283グラム(パッケージ込みで)。

驚くべきは紅葉をイメージした極薄のカステラ生地にサンドされたあずき羊羹(小倉)の恐るべき厚み。
柔らかく煮詰められた備中産大納言小豆の美しい断層と粒粒に目が吸い寄せられる。

しっとりと心にまでしみ込んでくるような・・・これは凄いね。
地味だが「風月堂」よりもしっとり度が高そう(どちらがいいとは言えない)。
〈実食タイム〉
包丁を入れてから菓子皿に取り分けて、しばし断面を眺める。

ときめきが止まらない。落ち着け落ち着け(汗一滴)。
口に運ぶと、カステラ生地のしっとりした歯ざわりの後から主役のあずき羊羹のいい風味が穏やかに押し寄せてきた。

ほんのり塩気も感じる。抹茶も合うが、コーヒーも合う。

明治⇒大正⇒昭和⇒平成⇒令和へと受け継がれた、この逸品の歴史を思い描きながら、手と舌がどんどん動く。
思ったよりもやさしい余韻。ため息とともに「うめえ・・・」がポロリと口からこぼれかかった。
●あんヒストリー
松江の和菓子文化をつくった茶人大名・松平不昧(松江藩7代藩主・松平治郷)の御用菓子司として松江でも有数の歴史を持つ。現在9代目。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が愛した和菓子屋さんでもある。
【サイドは?】
朝汐羊羹:4種類ある流し込み羊羹の一つ
4種類の流し込み羊羹の中で紅練りと本練り、挽き茶は味わっているので、今回はこの朝汐羊羹にした。

「朝汐」は松江の伝統上菓子で、この朝汐羊羹も一力堂6代目が明治初期に記した製法に則ってつくられたもののようだ。

やや明るめの練り羊羹で、上品でやさしい塩気が特徴。

備中産小豆(皮むき餡)と寒天の配合、練り加減は代々口伝で受け継がれたもの。
柔らかな舌触りと口どけが素晴らしい。
地伝酒どら焼き:この地方に伝わる料理酒(地伝酒)のどら焼き

フツーのどら焼きよりも焼き色が淡く、地伝酒を沁み込ませているので、食感がしっとりしている。

小麦粉と卵の香りもほんのりと立ち上がってくる。

口内でのマリアージュがたまらない。
思ったよりもすっきりとした後味で、地伝酒という言葉の響きとともに心にまで沁み込んでくる独特の美味さ、だと思う。
松江はやっぱり一目置きたくなる、特別なあんこエリアだと3歩下がってかしわ手を打ちたくなった。だんだん、だぜ(地元の方言でありがとうの意味)。
「一力堂」京町本店
所在地 島根・松江市末次本町53
