神奈川・相模原周辺は酒饅頭の町でもある。
東京・荻窪の高橋、日光の湯沢屋など、これまで職人の手の匂いのする酒饅頭を食べ、その糀(こうじ)の香りのする皮とあんこに胸が躍った。
美味しい酒饅頭は美味しい(このロジック、ヘンだ)。
酒饅頭の歴史は遠く鎌倉時代までさかのぼるが、ここでは長くなるので省く(書きたいけど残念😂)。
たまたま橋本駅ちかくで、地元でも有名な和菓子屋さんをのぞいてみた。
「御菓子司 志美津屋(しみずや)」の看板と饅頭をデザイン化した屋号。酒まんじゅうの文字も見えた。
大きくはないが、隙のない、いい店構え。
季節のいちご大福やうぐいす餅、豆大福から上生菓子まで作っている。
だが、いちご大福もうぐいす餅も売り切れていた。きれいな女性(3代目若女将だった)が申し訳なさそうな表情をした。
「酒饅頭はありますか?」
「はい」と言って奥に引っ込んでから、「つぶあんとみそあんがありますが」と聞いてきた。「両方ください」と私。
「本日中にお召し上がりください」
その二品(税込み 各120円)と「栗むし羊羹」(同 260円)、「栗どら焼き」(同 170円)を買い求めた。
最も驚いたのが、たいして期待せずに買った「栗むし羊羹」だった。
夕方自宅に戻り、賞味の時間。
小ぶりだが、きれいな栗(国産)が多分1個分以上、どかどかと入っていて、上品な藤紫色の蒸し羊羹とのコラボが絶妙の予感。
口に入れた瞬間、蜜煮した栗と蒸し羊羹がスーッと溶けていくのがわかった。
このスーッに舌先がびっくり(舌にだって感情がある)。
夢の名残りのような、羽衣のような、湧水のような。そんな表現を超える絶妙な美味さとしか言いようがない。
感覚的には栗と蒸し羊羹の境界線がない! 不思議な食感。
これは、すごい。オーバーではなく、これまで食べた栗蒸し羊羹の中でもベスト3に入る、あまりに繊細な味わい。塩加減がとてもいい。相模原の宝石を見つけた思い。
ほどよい、雑味のない甘さ。素材を見ると、吉野葛を加えている。
翌日、電話してしまった。
店の創業は昭和29年(1954年)。初代は酒饅頭屋さんで、現在3代目。この3代目が腕利きの若手和菓子職人だとわかった。都内の老舗和菓子屋で8年間修業、実家の跡を継いだ。すぐれた和菓子職人「選・和菓子職」にも選ばれている。
そこから酒饅頭専門から、和菓子屋に変身したようだ。
想像通り、基本のあんこへのこだわりが半端ではない。つぶあんはもちろん、こしあんまで自家製。その日出す和菓子はその日の朝に作る、を基本にしていることもわかった。
こしあんは作業が面倒なので、製餡所から生餡を仕入れる和菓子屋さんが多い中で、呉(ご=小豆の中身)からこしあんを手作りしている和菓子屋さんはそう多くはない。
小豆は北海道産、砂糖は白ザラメを基本にしている。
酒饅頭はつややかな皮の素朴なもっちり感と口の中に広がる糀(こうじ)の香りがとてもいい。皮自体が美味い。中のつぶあんも美味い。
味噌あんは味噌が強めで、白あんをわき役にしている。この地方で昔から作られている素朴な酒饅頭だと思う。
ちなみにこの酒饅頭だけは先代が担当しているようだ。
栗どら焼きはフツーの美味さ。中のつぶあんはいいテカリで、やや甘めで濃厚。栗の風味が効いている。
期待していなかった「栗蒸し羊羹」のあまりのレベルの高さに驚いた分、他はやや辛口になってしまったが、次回は何としてもいちご大福やうぐいす餅をゲットせねば、そう思うのだった。
所在地 神奈川・緑区橋本6-39-8