栗の美味しい季節に無性に食べたくなる一つが栗蒸し羊羹。
「えっ、栗ようかんでしょ?」
10年前なら私もその口だった。蒸し羊羹は小麦粉の加減で美味さが違ってくる気がする。
栗羊羹か栗蒸し羊羹か・・・ハムレットの心境になる(笑)。
寒天を使うか小麦粉を使うかの違いだが、私の好みのポイントは「秘すれば花」のこしあんの魅力を生かすか殺すか、となる。
という前振りで、今回取り上げたいのは浅草雷門の老舗「龍昇亭 西むら」の元祖「栗むし羊かん」である。名店の一つ。
菓子処の創業が安政元年(1854年)だが、それ以前は掛け茶屋(よしず張りの簡素な茶屋)だったようで、そこまでさかのぼると、文政年間(1830年頃)までたどれるようだ。
編集長「やっぱりここだよね。隣がどら焼きの大行列店『亀十(かめじゅう)』で、渋好みの和菓子好きとしてはちょっと複雑な心境になる(笑)」
あん子「西むら派と言いたいわけですね(笑)。ここの栗蒸し羊羹は確かに美味しさがひと味違う気がするわ。今回はどら焼きも買ったんでしょ?」
編集長「まあね。どら焼きもいいレベルだったけど、やっぱり栗蒸し羊羹だなあ。こしあんの魅力をうまく引き出した、私が食べた中でも栗蒸しベスト8に入る味わいだよ」
あん子「栗の美味さはどうですか? パッケージも竹皮包みは無理としても、経木をあしらうとか・・・あまりにシンプルな真空パックなので、見た目でもったいない気がするけど」
編集長「シンプルイズベスト、中身が一番だよ。ロバータ・フラックを見なさいよ(笑)。やっぱりそこは外しちゃいけないと思うな」
・今回ゲットした星々
元祖栗蒸し羊羹1棹(税込み 1080円)
どら焼き(同216円)
チーズバター入りどら焼き(同300円)
【本日のセンター】
元祖栗蒸し羊羹の幸せホルモン
蜜煮した黄色味の深い大栗がゴロゴロ。しかもよく見ると、蒸し羊羹本体にも砕かれた栗が練り込まれている。
サイズは長さ約180ミリ、幅40ミリ、厚み38ミリほど。重さは約290グラム。
蒸し羊羹本体は小倉色の、深みのある色で、見つめていると、妖艶なしぐさで「おいで」されている気分になってくる(おいおい)。
この蒸し羊羹の秀逸なのは口に入れてから数秒するとわかる。
もっちり感と口どけの良さ。
よくある蒸し羊羹のような、過剰な小麦粉の存在をあまり感じない。
北海道産厳選小豆で炊いた自家製こしあんが奥の方から気が付いたら表舞台にすっと出てくる感じ。
こしあんの魅力を最大限に引き出した蒸し羊羹だと思う。
蜜煮した栗はホクホクと帯をほどき、蒸し羊羹本体と絶妙に融け合う(ホントそんな感じです)。
自然でほどよい甘さ。かすかな塩気。その余韻。
小麦粉の他に葛粉を使っているようで、それがこの何とも言えない絶妙な美味さを作っているのかもしれない。
幸せホルモン(セロトニン)がジワリと広がる栗蒸し羊羹・・・浅草にはいい和菓子屋さんが多いが、ここもその代表の一つと言える。
現在は5代目で、京都でも職人修業している。
技術のいる上生菓子も作っているが、きんつばや豆大福なども店頭に並んでいる。
京都と浅草のタイムトンネルがこの店のずーっと下にある。
【サブはどら焼き進化系】
編集長「どら焼きはフツーに美味いね。きちんと作っているのがわかる。あんこはつぶあんだけど、小倉あんにしている。ふっくらしたつぶつぶ感とこしあんがいい塩梅で、甘めだけど塩気が効いていて、ベースにある技術が感じられる」
あん子「手焼きのどら皮のスポンジ感といい、全部がフツーに美味しいわね。大きさもやや大きめ(左右約90ミリ、重さ約105グラム)。焼き色が濃いですね」
編集長「面白いのは『チーズバター入りどら焼き』だね。バターどら焼きは珍しくないけど、チーズバターは珍しい。5代目のチャレンジではないかな。『西むら』の焼き印にプライドを感じる」
あん子「つぶあんの上にチーズバターが分厚く乗ってるけど、食感はクリームチーズかマスカルポーネね。つぶあんとなめらかなチーズバターのほんのりした塩気が合っています」
編集長「チーズバターが少し出過ぎてる気がするけど、インパクトを優先したのかな?」
あん子「そこは好みの問題ですね。若い子にはこの方が受けるかも。亀十のような観光客などの混雑もないので、穴場と言えるんじゃないかしら」
編集長「確かに(笑)。本物は隠れている、ってことじゃないかな」
・御菓子司 龍昇亭西むら本店
所在地 東京・台東区2-18-11
最寄り駅 浅草駅から歩約3~4分