江戸時代は東海道五十三次・戸塚宿だったエリアで、すごいあんこ菓子を見つけてしまった。
大粒あずきがびっしり詰まった重量級の小倉蒸し羊羹。
そのあでやかなお姿を見ていただきたい。
もとはと言えば、ネットのあんこ旅を楽しんでいたら、たまたま出会ってしまったことから始まる。これは行かずばなるまい。
叶秀山庵(かのうしゅうざんあん)本店。
三度笠と草鞋の代わりに電車とスニーカーで戸塚駅で下車し、歩くこと約3~4分。
店の前に立つ。
町の渋めの和菓子屋さん。名店の予感。
★ゲットしたキラ星
「小倉蒸し羊羹 萩の舞」 一棹 586円
みかん大福 210円
豆大福 160円
きんつば 160円
※すべて税込みです。
【センターは?】
凝縮した小豆の銀河に吸い込まれる
上生菓子からだんごまで、朝生に徹した品目が並んでいて、店主のこだわりが見て取れた。2代目女将さんが明るい応対をしてくれて、入ってから1分もたたずに、あんこころを鷲づかみされてしまった。
目的の小倉蒸し羊羹「萩の舞(はぎのまい)」に目が止まった。
「100グラムあたり 180円」と珍しい表記。
「手づくりで包丁で切り分けているので、どうしても大きさに違いが出ます。なので、100グラム当たり、にしてるんですよ」
和菓子屋巡りで初めての体験。
少量製造(手づくり)のようで、まだ正午前だというのに2本しか残っていない。
583円と586円。重い方を選んだ。
驚きの小倉(つぶあん)のかたまり。とらや「夜の梅」どころか、「夜の梅だらけ」とつぶやきそうになった。練り羊羹と蒸し羊羹の違いも夜空の向こうへと吹っ飛んでしまった。
試食タイム:その約5時間後、「日持ちは本日中」を守って、自宅に戻ってからドリップコーヒーを用意して態勢を整える。
サイズは120ミリ×46ミリ×厚さ46ミリほど。重さは324グラム。
藤紫色の美しさにあんこハートがときめく。
味わい:甘さはむしろ淡い。見た目は小豆びっしりだが、包丁で切ると、小豆が実に柔らかく炊かれていることがわかる。
小麦粉とこしあんの蒸し羊羹部分は背景に隠れ、主役の小豆(北海道産)が前面に出てくる。それも形はしっかりあるのに、歯がすっすっと入る。軽い驚き。
渋切りをしっかり繰り返しているような、雑味のなさ。
なので濃厚を期待すると裏切られる。
だが、小豆好きにはたまらない、儚さと紙一重の味わい。
塩気がない。
「うちはあんこには塩を使わないんですよ。小豆本来の味わいを楽しんでいただきたいからです」
小豆は契約農家から仕入れているようだ。こだわり方が半端ではない。
京都の生菓子屋にはあんこ炊きの際、塩を使わない店が多い。
その意味では江戸⇒東京よりも京都に近いかもしれない。
あんこづくりのこだわり方は、例えば小豆の形を崩さないために籠に入れたまま炊くなど、独自の製法を追及しているようだ。
さらなる驚き。女将さんによると、柔らかく炊いた後も蜜漬け⇒さらに炊くという手の込んだ炊き方をしているとか。
味わいのピュアさはそのこだわりの結果とようやく理解できた。
個人的には以前食べて衝撃を受けた秋田・東成瀬村だけに存在する「あずきでっち」(こちらはもち米だが)を思い起こさせる見た目とあんこの衝撃度(「あずきでっち」の方が濃厚だが)。
戸塚と秋田の点と線?
甘さが薄いので、あっという間に3カットが胃袋に消えた。
●あんヒストリー
創業は昭和47年(1972年)。現在2代目。和菓子専門学校を卒業した後、千葉の老舗で修業。初代(父)の跡を継いでいる。価格が高いものよりも、地元の和菓子好きに愛される価格帯をポリシーにしているようだ。なので、季節の高級な「栗蒸し羊羹」は作らず、ユニークな小倉蒸し羊羹を創作して販売しているとか。近くに「大阪上店」もオープンし、プロフェッショナル2代目はそこでこだわりの和菓子づくりを続けている。
【セカンドは?】
みかん大福:有機もち米を搗いた柔らかな餅、甘くジューシーな小粒みかんを白あん(北海道産手亡)が包んでいて、包丁を入れると、断面にスキがない。上質なみかん大福。
豆大福:こちらは小ぶり。柔らかな搗きたて餅に黒豆が練り込まれている。赤えんどう豆ではなく黒豆。中のつぶあんは藤紫色。柔らかさとふっくら感。塩気はない。
きんつば:50ミリ×50ミリ×厚さ25ミリほど。蠟のような白い、繊細な手焼き感のあるきんつば。つぶあんの存在感がすごい。これも塩は使用していない。なので、濃い味わいを期待すると裏切られる。私的にはあんこへの見方を変える、絶妙な美味さだと思う。
《小豆のつぶやき》
▼AIの時代にかような、素材選びからこだわりの強い和菓子をつくり続けている和菓子屋さんが存在していることに驚いた▼地元では有名な人気店だが、テレビなどメディアにはほとんど出ないので、希少な店だと思う▼それにしても小倉蒸し羊羹には驚かされた。
「菓子司 叶秀山庵本店」
所在地 神奈川・戸塚区戸塚町4893