先日、京都の老舗「亀末廣」の栗蒸し羊羹を取り上げたところ、あん友から「東京にもいい栗蒸し羊羹がいっぱいある。例えば茗荷谷の『一幸庵』。予約してから行かないと手に入らないよ」とメールが入った。
なので、今回は和菓子界でも評価の高い「一幸庵」(いっこうあん)の栗蒸し羊羹を取り上げることにしました。
どちらも秋から11月にかけての季節限定というのが希少。
京都「亀末廣」とは見た目も味わいも全く違う、和菓子の世界の多様性を実感できる黄金の時間となった。東西トーザイの巻です😍
まずはご覧いただきたい(チラ見せです)。
二層仕立てで、上が蒸しパンのような「松風」(京都発祥の主に味噌風味の菓子)で、下が栗蒸し羊羹。色全体が淡く、「亀末廣」の剛毅な、千利休の侘び寂びの世界にも通じる竹皮包みの栗蒸し羊羹(下の写真=参考までに)と同じジャンルのものとは思えない。
・今回ゲットしたキラ星
栗蒸し羊羹(半棹) 2400円(税別)
能登大納言小豆(瓶詰め) 810円(同)
【センターは?】
栗蒸し羊羹のもう一つの世界
「一幸庵」には5年以上前に一度行ったことがある。このブログを始めたころ。
時刻が夕方だったため、季節の上生菓子はすっかり売り切れていて、方針転換。すぐ近くにある「カフェ 竹早72」(『一幸庵』の娘さんが店主)で評価の高いあんこを数種類楽しんだ。
渋抜きがしっかりされた、上質なあんこが並び、特にこしあんは色も味わいも淡白だった記憶がある。
今回は予約してから伺ったので、ゲットできた。安くはない。なので、予算の関係で半棹にした。
白い長暖簾が印象的な店構え。女性客が3~4人いて、茶席にもよく使われる、首都圏の上生菓子屋さんというイメージが強い。
創業は1977年(昭和52年)。老舗の風格があるが、思ったよりも古くはない。
栗蒸し羊羹を受け取る際、ふと横を見たら、「能登大納言小豆の瓶詰め」が目に入った。あんこの瓶詰めは最近、少しハマっているので、「一幸庵」の味を試してみたくなった。ついでにゲット。
さてさて、メーンの「栗蒸し羊羹」。
包装にはメッセージが差し込まれていて「作るものから言えば、お菓子はすぐに口にしてほしのです・・・せめてその日のうちに」うんぬんと書かれていた。
●見た目
松風と二層仕立て、というのは東京にも京都にもない(と思う)。
調べてみたら、店主はもともとは江戸菓子の家に生まれ、京都、名古屋で和菓職人として修業を積んだことがわかった。
三都市の和菓子が店主の中に流れていることにもなる。
さらに調べてみたら、松風との二層仕立ては尾張名古屋独特の栗蒸し羊羹で、店主は名古屋で修業したときにヒントを得たのではないか。
サイズは半棹で115ミリ×20ミリ、厚さは60ミリほど。重さはパッケージ込みで290グラムほど。
蜜煮した栗がきれいに並び、蒸し羊羹自体はかなり淡い色。
上段の蒸しパン状の松風からはほんのりと味噌(溜まり醤油かもしれない)の香りがする。
●味わい
蜜煮した大粒の栗が絶妙なほっくり感。栗は茨城産「利平栗」を使っているようだ。
栗のぼこぼこ感と整然とした配列。ピュアな栗と「松風」の甘い味噌の風味が混然一体となる。「亀末廣」の荒々しいまでの栗とは明らかに異なる。
蒸し羊羹部分は淡い茶色が印象的。コントラバスみたいに。
自家製こしあん(北海道産厳選あずき)の入り方が絶妙で、むっちりと歯に吸いつくような食感。小麦粉の他に吉野本葛も加えているのではないか。
砂糖は鬼ザラメを使用しているようだ。
ひと噛みごとに三つの要素が舌の上で愛をささやき合っているような、不思議な感覚に襲われる(ハズしたかな?)。
こだわりの製法。説明によると、栗蒸し羊羹に松風を乗せ約3時間もかけて蒸し上げているとか。
口どけもいい。栗と松風の余韻がしばらく残る。
●あんポイント あえて個人的な好みで言えば、京都「亀末廣」の、余分なものをそぎ落とし、テノワール(土壌)を意図的に打ち出した栗蒸し羊羹の方に衝撃を受けたが、同じ巧緻を極めた小世界なのに、全く異なる仕上がりというのが面白い。
【セカンドは能登大納言小豆】
これは意外な中身だった。
「日本一大きい」能登大納言小豆を蜜煮したものだが、色の濃い丹波系の大納言小豆とは微妙に違う。
ひと粒の大きさが測ってみたら左右13~15ミリもある。
小さめの瓶に約100グラム入り。
水分を飛ばしながら煮詰めたあんこではなく、シロップ漬けしたよう(砂糖は白ざら糖を使用)。
だが、スプーンで口に運ぶと、形がしっかりあるのに芯までふっくらと柔らかい。
新しい挑戦かと思ったら「もう20年前くらいから作ってますよ」と女将さん。
ひょっとして瓶入りあんこのパイオニアかもしれない。パンに乗せて食べてもイケる。
「一幸庵」
所在地 東京・文京区小石川5-3-15