先々月のこと、「あんこラボ」のトークショー(和菓子を楽しむイベント)に呼ばれて、主催のエンドーさんとあんこ談義を楽しんできた。
その際、通の彼女が取り寄せてくれた一つが、極めて珍しい和菓子(棹菓子)だった。
和菓子の3大エリア、京都・金沢・松江の一角、松江「御菓子司 三栄堂」の逸品「日の出前(ひのでまえ)」。
パッと見には、きれいなあずき羊羹だが、寒天を使用ない、この店独自の製法で、シャレた紙包みを取っていくと、藤紫色の美しい棹菓子が現れた。
「皮むき餡でこしあんをつくってから、熱いうちに上から丹念に押し積みして、何層にも重ねてていく製法で、素材はほとんどこしあんと砂糖だけ。しののめ(東雲)造りというらしいんですよ」
エンドーさんの説明を聞きながら、そんな造り方があるんだ、と驚きながらいただくと、参加者のほとんどが数秒後に「口どけがすごい。美味しい」とため息をついた。
きれいなこしあんの塊りにも見える、実にシンプルな外観だが、シンプルゆえに奥が深いと感じさせるもの。
不思議なあんこ菓子。
たまたま今回、予期しなかったお仕事が入り、その「日の出前」をお取り寄せして、改めてじっくりと味わうことにした。
★ゲットしたキラ星
日の出前(2棹) 1836円×2棹
朝汐(2個入り) 475円
黒の松もち 292円
※送料は別途。ずべて税込み価格です。
【センターは?】
初めての食感、一子相伝・皮むき餡の傑作
お姿:大きさは205ミリ×40ミリ×厚さ36ミリほど。重さは約390グラム。 どこか手触り感のある藤紫色の棹菓子だが、よく見ると、断層の痕跡も見える。
表面には蜜煮したあずきの皮(甘納豆?)がポツリポツリと天の穴のように浮かんでいる。これも計算済み?
※古語で、夜明け前の徐々に茜色に変化していく状態を「東雲(しののめ)と呼ぶが、その闇⇒光(あかつき)を菓銘にしている。命名者は陶芸家の河井寛次郎とか。
味わい:包丁で2~3センチ幅に切り分け、菓子楊枝で味わう。練り羊羹でもない、蒸し羊羹でもない、こしあんの粒子の結合体・・・菓子楊枝がすっと入る。
日の出前のこしあんが、モーゼの海割りのように、左右に分かれる(まさか?)。表現がオーバーだけど、そんな感じかな。
口に入れると、まるでこしあんの上品な塊りで、小豆のこまやかな粒子がふわりと広がり、解け、しばらく舌の上にとどまってから、すうーっと溶けていく。
ねっとりでもなく、もっちりでもなく、ほっこりに近い食感。
淡い甘さ。儚さに通じるような、不思議な存在感。
皮むき餡と上白糖でこしあん造り。塩は使用していない。寒天の食感はないので、不使用かと思ったら、よく見ると材料の表記の中に寒天も入っていたので、ほんの少し使っているのかもしれない。
あん子「とても上品ね。どこか懐かしい味わいでもある。ホントにきれいなこしあん。これ案外好きかな」
編集長「皮むき餡って、松江独特のものらしいよ。小豆の皮を取ってから炊くので、色がとても淡い、ちょっとピンクがかった藤色に近いかな。棹菓子はずいぶん食べてるけど、こういう食感は初めてかな。あえて言うと、上質なさらし餡を絶妙に固めたような舌触りで、さすが松平不昧公の出身地だね。かなり凝ってる」
●あんヒストリー
「三栄堂」の創業は昭和4年(1929年)。現在3代目。「日の出前」は一子相伝で引き継がれているとか。安来市「足立美術館」の茶席菓子になり、口コミなどで次第に評判となっていった。伝統的な上菓子と創作菓子にも取り組んでいる。
【セカンドは?】
朝汐:こちらも中は皮むき餡の薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)。
皮は上用粉(上質な米粉)に山芋を加えたもので、中のこしあんは「日の出前」と同じ皮むき餡。
なので、甘さは薄く、淡い味わい。皮のしっとり感と清々さが上品で、2個ぺろりと行ける。塩気は感じない。
黒の松もち:小さな短冊状の半生あんこ菓子。焼き色の入った薄いもち皮の上に小倉あんが板状に乗っている。手につかない、あっさりとした味わいで、ちょっとしたお茶菓子にはうってつけかもしれない。2枚入り、和紙包みのセットになっている。
《小豆のつぶやき》
▼和菓子の世界の広さと深さを垣間見た思い▼あんこを熱いうちに板状に積み上げていくなんて、さすが松平不昧公の松江だね、と声をかけたくなる▼上品であんこ好き(特にこしあん好き)にはおすすめしたくなるが、濃厚なあんこ好きには少し物足りないかもしれない▼12月からは冬の節菓「和 やわらげば春」も発売されるようで、日本の四季の美を追求する姿勢がすごいと思う。
「御菓子司 三英堂本町本店」
所在地 島根・松江市寺町47