あんこ好きにはたまらない逸品と鉄道ファンのメッカ、栃木・真岡(もおか)で出会った。「めっけ!」の気分。
これだからあんこ旅は止められない。
ぜいたくな丹波大納言をじっくりとブレンドした小倉あんをこしあんの時雨(しぐれ)で渦巻き状に巻いたもの。
菓名は「真岡しぐれ」、1本1520円(税込み)。
タネを明かせば、私がずっと追っている江戸幕府の終えんとともに暖簾をたたんだ御菓子司の一つ「紅谷志津摩(べにやしづま)」の流れを汲むかもしれない和菓子屋「紅谷三宅」を訪ねたときに偶然見つけたもの。
いちご大福や草餅、かわいい動物の煉り切りが目玉の和菓子屋さんで、地元では有名な店だった。
正午過ぎに着いて、店内をのぞいてみたら、いちご大福はきれいに売り切れていた。和菓子だけでなく洋菓子も並んでいた。
いい店構えのセンスのいい店で、感じのいい女性(2代目の奥さんだった)と話すうちに、「真岡しぐれ」の存在に気づいた。
京都の老舗、俵屋吉富の「雲龍(うんりゅう)」、鶴屋吉信の「京観世(きょうかんぜ)」と同系の凝った和菓子で、信州・松本「開運堂」の「老松(おいまつ)」も連想させた。
腕がないととても作れない、これがかなりの感動ものだった。
人気だという「栗ふくさ」(税込み280円)と「黄身時雨」(同200円)も買い求め、店主は仕事中ということで、話を聞くのは断念して、店を後にした。
翌日、自宅に帰ってから賞味した。
一本の重さは539グラムもある。手に持つとズシリと来た。大きさは200ミリ×55ミリ×45ミリ。
何よりも外側は見事な紫色の時雨(しぐれ)で、丹波大納言小豆を練り込んだ小倉あんが渦巻き状になっていた。ロール状のあんこスイーツと言ってもいいと思う。
京都の粋の遺伝子が頭の中にぐるぐると回った。真岡でまさかの出会いということになる。
コーヒーを淹れ、包丁で切ってから、口に入れる。
外側の時雨(しぐれ)の口どけの良さ。きれいなこしあんの風味が広がる。
丹波大納言のふくよかな小倉あんと溶け合うと、何だかここはあるいは極楽か、と思いたくなる。
素晴らしきまったり感。
砂糖は白ザラメを使っているようだ。甘さがほどよく整えられている。
あんこはすべて自家製。
栗ふくさも黄身しぐれも上質な美味さ。
店の創業は平成2年(1990年)。2代目の奥さんによると、初代が東京の「紅谷」で修業したとか。それが紅谷志津摩の流れを汲む和菓子屋さんのようだ。
私がこれまで食べた紅谷系の中で、個人的に最もすごいと思ったのは「青山紅谷」で、創業は大正12年(1923年)。シンプルな上菓子屋さんだった(ちなみにすぐ近くの珠玉の名店「まめ」が3月27日で店をたたむ。すごい店なので、とても残念)。
「紅谷三宅」と「青山紅谷」の関係は不明だが、私にとっては「紅谷」の名前が残っていることがうれしい。
コロナ禍の夢の時間。
京都と江戸のあんこ遺伝子が口の中で、くんずほぐれつ、ぶつかり合い、合体し、溶け合いながら昇天していく。
脳内エンドルフィン、全開だよ。
たまらない。
所在地 栃木・真岡市並木町2-20-15