表通りだけではない、裏通りや路地裏にも隠れた名人がいる。
こどもの日の増刊号に選んでみました。
今回ご紹介したいのは、私の中でもちょっと驚かされた和菓子屋さん。
JR成田線で成田から一駅。周辺は田園地帯で、無人駅・下総松崎駅(しもうさまんざきえき)があるのみ。
しばらく歩くと、かような場所に、という先にポツンと一軒家?
シンプルな店構えの、いぶし銀のような和菓子店が現れた。
「老舗 大竹堂」の屋号。白い長暖簾。どこか隠者の気配が。
淡いオーラと同時にバリアも感じた。踏み込めない。
思い切って入ってみると、京都や金沢の老舗にも通じるような、生菓子類がシンプルに、ささやくように渋い輝きを放っていた。見っけ。
どら焼きやさくら餅も気になったが、それ以上に私の目を惹きつけたのがカラフルなあんこ玉だった。
ただのあんこ玉ではない。
★ゲットしたキラ星(あんこ玉)
栗天 238円
りんご天 216円
あんず天 216円
青梅天 216円
※すべて税込み価格です。
栗天:こしあん×蜜煮栗
一見すると、フツーのあんこ玉に見えるが、中に蜜煮した栗が丸ごと1個潜んでいる(写真㊧)。
大きさは約40ミリ××40ミリの球形。表面の透明な寒天の膜が秘すれば花の世界を予感させる。
味わい こしあんの質の高さ。控えめな甘さ。小豆は北海道産、砂糖は「ものによっていろいろ」といい職人にありがちなぶっきらぼうな応対。「いい素材を使うのは当たり前でしょ」と言わんばかり。素っ気ないが、よく考えてみると、質問の方がどうかしている(とは思うが、ここは難しいところでもある)。
蜜煮栗の質も高い。歯触りも風味も上品で、いい余韻が舌に残る。
りんご天:きれいな淡いピンク色。白あんにりんごのペーストを煉り込んでいる? よく見ると、蜜煮したりんごも入っている。見えないところへのこだわりと作り方が上生菓子のレベルだと思う。
味わい 白あんの甘さがいいレベルで、そこにりんごの甘味と酸味が加わる。目と舌と余韻のマリアージュがとてもいい。
あんず天:見た目は黄色っぽいあんず色。白あんベースにあんずペーストがいい具合に絡んでいる(写真㊧)。さらに蜜煮したあんずが1個分入っていた。
味わい あんずの甘酸っぱさが印象に残る。ねっとりとした食感で、りんご天のすっきり感とはまた違う。それぞれの個性を生かしたアイデアと作りがお見事。
青梅天:こちらはきれいな青梅色。中に蜜煮した青梅(種入り)が丸ごと1個。種もそのまま。
切るのに一苦労。割ると、蜜煮青梅はゼリー状になっていて、煮詰め方のこだわりも感じた。
味わい 白あんベースの梅あんはすっきりした舌触りで、梅の風味がすぐに来る。酸味と甘みのバランスがとてもいい。ありそうでなかなかお目にかかれない珠玉の一品だと思う。今風に表現すると、ネオあんこの傑作かな。
●あんヒストリー
はっきりとした創業年は「古文書が紛失してしまっているので」不明だとか。だが「私で8代目になります」。そこから推測すると、フツーに考えて200年以上の歴史になると思う。成田山との関係も不明だが、「昔からここの場所で」という位置から、何らかのつながりはあったのではないか。和菓子職人としての修業は教えてもらえなかったが、伝統と進取の気配からかなりのキャリアを感じた。
「老舗 大竹堂」
所在地 千葉・成田市大竹2033