すっかり師走だが、先月、つまり晩秋に東京・神保町の「御菓子処 さゝま」の紺地の渋い長暖簾をくぐった。
長暖簾には「御くわし屋」とこだわりを感じさせるくずし文字で表記されている。
ここは知る人ぞ知る都内でも有数の上生菓子屋さん。
季節ごとの生菓子を買い求める固定ファンが多いことでも知られる。
ほとんどが茶会や茶席用に、あるいは大事な人への手土産として、はたまた自分へのご褒美用にワンランク上の和菓子を買いに来る(例外ももちろんある。たとえば私)。
私がここを訪れたのは先月11月のこと。なので、今日現在(12月5日)、季節の生菓子は切り替わっている。
とはいえこの店の目玉の一つ「松葉最中」や羊羹類は通年商品なので、1年中ゲットすることができる(売り切れていない限りですが)。
という前振りで。
★ゲットしたキラ星
新栗むし羊羹 380円
松葉最中 150円
山路(しぐれ) 380円
秋の山 380円
※すべて税込み価格です。
【センターは?】
松葉最中:究極に近いこしあん最中の至福
今回はセンターに何を持ってくるか迷った。
というのも松葉最中以外(季節の生菓子)は11月末で切り替わってしまったから。
なので、今回の選択基準は通年商品であること、価格がリーズナブルであること、しかも満足度が上回っていること(個人的な感想です)。
で、この店の定番「松葉最中」をセンターに置いた。
ごらんの通りの外観。松葉模様のシンプルな刻印。渋いオーラ。
サイズは約48ミリ×48ミリ。厚みは16ミリほど。重さは26グラム。
実食タイム 種(皮)の香ばしさに品格があり、何よりも中のあんこが驚くほどなめらかな自家製こしあんであること。
もし最中(もなか界)のパウンドフォーパウンドがあったら、個人的には必ずベスト10以内には入ってくる味わいだと思う。
形がギリギリのところで崩れない、しかもサクサクとした歯触り。
同時に立ち上がってくる上質な香ばしさ。
こしあんのたっぷり感。
隠し味である寒天の配合が絶妙で、舌を撫でるようななめらかな舌触り。
甘さ(白ザラメ?)の切れとやさしさ。
思わず「うめえ~」と三文字が漏れるほど。
かすかに塩気も感じる。
●あんヒストリー
創業が面白い。昭和4年(1929年)パン屋として神田小川町で産声を上げ、その2年後、現在の場所で和菓子店を始め、さらにその3年後(1934年)パン屋を閉鎖し、和菓子専門店になっている。当時から上質な和菓子づくりをポリシーにしていたようだ。店のこじんまりとした清楚な佇まいは京都の上菓子屋のようで、侘び寂びの世界を今も体現している姿がクールだと思う。現在3代目。
【セカンドは?】
新栗蒸し羊羹:新栗×小麦粉×くず粉×こしあんの合体
見事な小倉色の蒸し羊羹部分と新栗とのマリアージュが口に入れて噛んだ瞬間、爆発的な広がりとなって押し寄せてくる・・・そんな感覚。
それでいて穏やかな、たおやかな、大地の恵みを感じさせる。
新栗への祝福を体現しているよう。
上品な甘さ。くちどけの良さ。
この季節しか味わえない、というのも「一期一会」に通ずる逸品だと思う。
山路(しぐれ):新栗としぐれの絶妙な視覚と味わい
蜜煮した新栗をしぐれ(米粉×こしあん)に乗せ、まるで月夜の山道をイメージさせる。
これも蒸し物の一つだが、新栗としぐれのとろけ愛がどこか切ない。
ゆえに余韻の儚さがとても印象的。
上質なこしあんが長い余韻の中でしばらく舌の上にとどまる。
個人的にはこれは私の中では主役級。
秋の山:二層づくりのアートな創作生菓子
文字通り秋の山をイメージした上生菓子で、上の層は上南羹(道明寺のような蒸し菓子)、下の層は小倉羊羹。
食べるのがもったいような、美しい上生菓子だが、ベースの小倉羊羹がいいあずきの風味を放射していて、上部の上南羹の軽やかなつぶつぶ感を押し上げてくる。
まさに上生菓子の味わい。
正座して抹茶でいただきたくなる。
「御菓子処 さゝま」
所在地 東京・神田神保町1-23