あんぱん好きにとって、東京・浅草の「あんです 的場(まとば)」は外せない。
常時約20種類のあんぱんがずらりと並ぶ光景は
「ここは天国か?」
と思いたくなるほど。
こしあん、小倉あんから始まって、塩あん、メロンあん、ずんだあん、焼きいもあんまである。
季節の限定品も売りの一つ。
去年秋、私のつたないガイドで「あんこラボ」のあん友10人で浅草老舗和菓子巡りをしたとき、ここにも立ち寄った。主宰のエンドーさんが教えてくれた店。
老舗ではない、という理由で、私はうっかりスルーしてしまった。
その時の心残りが、今回の訪問となった。
胃袋が一つしかないので、全部は食べきれない(胃袋がせめて8個は欲しい)。
あんぱん版ノアの箱舟。とりあえず今回はこの方法しかない。
財布と相談、熟慮の末、4種類だけ選んだ。それがこれ。
隠れ人気ナンバー1「塩あんぱん」、「あんバターフランス」、季節限定の「みそあんぱん」、それに「小倉あんコッペ」。
すべて税込170円なり。たまたまなのか、銀座木村家本店の元祖桜あんぱん(税込み170円)と同じ値段。全体的には木村家本店の方が高いが。
有機コーヒーを用意し、自宅に持ち帰って、試食となった。
最も気に入ったのは「塩あんぱん」。パンの美味さがひときわ光り、何よりも中に詰まった塩あんが気に入った。
抑えられた甘さと北海道産えりも小豆(つぶあん)の風味が素晴らしい。
個人的なこのジャンルの頂上巣鴨「喜福堂」に近づく、小さな天国感。つい目を閉じたくなる。
ベーカリー「あんです的場」がオープンしたのは1980年(昭和58年)。大正13年(1924年)創業の「的場製餡所」がアンテナショップとして始めた。
製餡所が営むあんぱん専門店というのは珍しい。
銀座木村家(明治7年創業)が元祖なら、ここはあんぱん界の革命児だと思う。
続いて「あんバターフランス」を賞味する。
このあんバターフランス。フランスパン生地の美味さと、こしあん、それに包むときに入れるバター(マーガリン)の香ばしさと塩気が絶妙で、バターがあんこの中に隠れているのが面白い。なめらかなこしあん。「塩あんぱん」の次に気に入った。
「みそあんぱん」は京都の老舗「石野」の白みそをわざわざ使っている。あんこへのこだわりが見て取れる。白あんとのブレンド。5月いっぱいの限定品で、柏餅のみそあんを二次使用しているようだ。
最後になったが、小倉あんコッペは郷愁をそそるもの。小ぶりのコッペだが、パンの柔らかな美味さと中にぎっしり詰まった小倉あん(つぶあん)の相性がいい。甘さ控えめの柔らかなつぶつぶ感。
個人的にはここにバターも加えてほしいが、この原点のスタイルは悪くない。
小倉あんには塩の気配が感じられない。その分、あんこ自体の素朴な美味さがストレートに出ている。砂糖はたぶん上白糖。170円というのもコスパ的には好感。
浅草には江戸・明治から続くいい和菓子屋が多いが、そこに平成のあんぱんが加わった、と思う。
あんこの歴史の線と点。令和の先も見える。
アンパンマンの作者、やなせたかしさんもきっと天国で喜んでいるに違いない。
所在地 東京・台東区浅草3-3-2