これはこしあん銀河系あんこ餅好きには、一目置きたくなる「おだんご」だと思う。
とにかく見ていただきたい。
折にぎっしり詰まったこのおだんご、というよりあんころ餅(?)を初めて見た時、心がざわめいた。
5年近く前、台風18号で鬼怒川が決壊した時、茨城・常総市が大きな被害を受けた。たまたまボランティアのはじっこで汗を流していた時、世話好きの町のおばさんが持ってきてくれたものがこれだった。
見た目は素朴な、あまりに素朴なあんころ餅だったが、ひと口で一瞬にして疲労が吹っ飛んでしまった。疲れが美味さを倍増させたかもしれないが、こしあんと柔らかな餅の美味いこと。ホントにほっぺが落ちてしまった(心のほっぺだが)。
「春子屋のおだんごですよ」
おばさんから店名を聞き出し、とりあえずメモしておいたが、諸事情でその後訪ねる機会を失っていた。
コロナ禍の中、今回ようやく訪問が実現した。
添加物不使用の手作りのため、賞味期限は「本日中に召し上がってください」と完全武装の女性スタッフ。聞くと、女将さんだった。見事な熟練のワザで、自家製のこしあんを小さくちぎっただんごにこすり付けるように素早く乗せていく。その繰り返し。
店の創業は昭和3年(1928年)で、現在3代目。女将さんはその奥さんで、現場を仕切っているようだ。
関東のローカルで「90年以上こしあんだんご一筋」というの凄い。
一番小さな折り(18個入り 税込み540円)を買い求め、その約7時間後に自宅で5年越しのご対面となった。あんビリーバブルな再会。
折を取ると、再びざわめきの世界。こしあんの色に引き込まれそうになる。今回は疲労はない。
一見すると赤福ほど形は洗練されていないが、雑然としたどこか田舎臭い、素朴なこしあんが、口に入れた瞬間、いい風味ですっくと立ちあがってきた。
田舎娘がくるりと湯上り女に変化したような。
素朴な上質と表現したくなる。
北海道十勝産小豆の風味と、甘すぎない、あんこの粒子を感じる舌触り。うめえ・・・という言葉が自然出でてくる。塩は加えていない。
砂糖は上白糖を使っているようだ。
驚きべきはだんご(餅)のきれいな柔らかさ。地場産コシヒカリの上新粉を蒸かし、搗(つ)きあげ、少し冷ましてから小さくちぎって丸める。
餅粉も加えているのではないか、と思えるほど柔らかく伸びる。
それがこしあんの美味さと絶妙に合う。創業以来のあんこ愛が滲み出てくるような。
見た目は雑にも思えるほど素朴だが、それが研ぎ澄まされた熟練の世界で、クセになる美味さを意図的に隠しているのではないか。
人も見かけによらないが、あんこの世界も見かけによらない。
気が付いたら、半分なくなっていた。甘いため息。
これって伊勢の赤福、圓八のあんころ餅(白山市)、門前仲町の深川餅、中将堂よもぎ餅(葛城市)・・・個人的には庶民派こしあんのキラ星に負けないだんごの隠れ逸品だと思う。
コロナ禍の中の希望のあんこ・・・そうつぶやきながら、残り半分に手が伸びるのだった。
所在地 「春子屋本店」茨城・常総市本石下3054