数年前のこと。和菓子好きの友人がしたり顔で「さいたま市にはいい和菓子屋が少ないね。だから『週刊あんこ』でほとんど取り上げないんでしょ」とのたまった。
続けて「氷川神社があるのに、やっぱりダ埼玉ってことかな」と笑った。
私は埼玉県民だが、「確かになあ」と反論できなかった。いい店はあるが、これまで飛びぬけた店には遭遇していない。もちろんこれは個人的な感想です。
コロナで遠ざかっていたが、久しぶりに大宮駅で途中下車して、東口を高島屋方面へ歩いた。
目的は「風土菓房 福呂屋(ふくろや)」。
気になっていた店の一つ。
創業が大正7年(1918年)。現在3代目で、その娘さんが4代目(修業中?)という老舗の和菓子屋さん。さいたま市周辺の和菓子好きには知られた店でもある。
正直に言えば、半分程度の期待だった。
きれいな店構えで、上生菓子や餅菓子が並んでいた。眺めているうち、次第に胸のあんこセンサーがピコピコ高鳴るのがわかった。
買い求めたのは次の5品。いずれも賞味期限がほぼ本日中なので、大急ぎで自宅に帰って賞味することにした。
・麩まんじゅう(税込み 190円)
・わらび餅(同170円)
・亥の子餅(いのこもち 同200円)
・豆大福(同110円)
・栗蒸ようかん(同 220円)
その中の一品、「亥の子餅(いのこもち)」はこの時期の限定生菓子で、これを作っている店はそう多くはない。
平安時代からある餅菓子で、無病息災と子孫繁栄を祈って、神様に供えたという歴史を持つ。猪の子(いのこ)をかたどり、江戸時代からは中にあんこを入れるようになったと言われる。
福呂屋の亥の子餅は小ぶりで、点々とした白ゴマと猪の模様が三本ほど。凝った作り。柔らかな餅を切ると、見事なつぶあんがぎっしり。さらにクルミがごろっと入っていた。おおっ。
かすかに生姜の香りがした気がした。柔らかな餅と中のつぶあんが見事なハーモニーを奏で、やや甘めだが、いい和菓子職人の存在を感じた。ふくよかなつぶあんとカリッとしたくるみの絶妙な食感。風味。1+1=3の世界。うるうる。
「麩まんじゅう」は京都や金沢に負けないレベルだと思う。みずみずしい笹に包まれた麩まんじゅうの皮には青のりが練り込まれていて、プルプルと柔らかく、中のこしあんとのバランスがとてもいい。塩気がやや強め。
最も気に入ったのは「わらび餅」だった。蕩けるようなわらび餅ときな粉。何よりも中のこしあんがめっちゃ美味。粒子を感じさせるなめらかさ。麩まんじゅうのこしあんより少し塩気が抑えてある。
渋抜きしたいい小豆の風味がこしあんからすっくと立ち上がってくる。
しばらくの間、目を閉じて余韻に浸りたくなったほど。
「豆大福」は赤えんどう豆が3粒ほど。小ぶりで、餅の柔らかさと中のしっとりしたつぶあんがいいバランス。塩気もほんのり来る。
「栗蒸ようかん」は蜜煮した和栗が素朴で、蒸しようかんの控えめな甘さとマッチしていると思う。まろやかな塩気が舌に心地よい。口どけの良さ。手作り感が何とも言えない。
福呂屋の実力に正直、驚いた。予想を裏切る出会い。
とにかくあんこの美味さに脱帽した。
小豆は店主自ら仕入れた北海道十勝産、砂糖は何種類か使い分けているようだ。
こんなに高いレベルの上生菓子屋さんがさいたま市に存在し、しかも「風土果房」を名乗っている。ダ埼玉県民としては涙が出かかる。
気分は翔んで大宮!
あんこのマエストロ、と敬意を表したくなった。
埼玉を笑った友人よ、今度会ったら、絶品あんこでふくろ詰めにしてあげる・・・(笑)。ふっふっふ(ダジャレの締めをお許しください)。
最寄駅 大宮駅東口から歩いて約4~5分