もし2百年単位の和スイーツ番付があったら、横綱の一角は煉り羊羹(ようかん)だと思う。今回はとんでもない隠れ名店の栗羊羹と大納言羊羹を取り上げたい。くりとだいなごん。
あんこ旅では思いがけない出会いがいくつかあるが、これもその一つ。
タイムスリップしたような店構えにまず驚かされ、中に入ると、6代目だというややご高齢の店主の存在感に頭が混乱した。創業が弘化元年(1844年)とは。
栃木・佐野市の「御菓子司 大坂屋」。歴史のある街だが、時代に取り残されたような、あまりの人の少なさにローカルで和菓子屋を続ける苦労を考えてしまう(佐野プレミアムアウトレットは混み合っているが、街なかは閑散)。
百聞は一見に如かず。まずは栗羊羹(1棹 税別1500円)を見ていただきたい。
普通なら抹茶だが、意外にコーヒーも合う。猛暑なので、エアコンをかけてから、アイスコーヒー(シロップ抜き)に氷を入れ、菓子楊枝(かしようじ)でいただく。
羊羹は30分ほど冷蔵庫で冷やしておく。真夏の食べ方。
表面の蜜のテカリ、小倉色のきれいな煉り、ぼこぼこと入ったお見事な大栗。
歯にくっつきそうな羊羹独特のねっとり感だが、不思議にくっつかない。
口の中で絶妙に溶けていく。口どけがとてもいい。
蜜煮された大栗のきりっとした歯ごたえと煉り羊羹とのバランス。熟練の技、職人芸としか言いようがない。余韻のきれいな長さ。幸せホルモン全開。
羊羹といえば「とらや」があまりに有名だが、個人的な感想ではここの羊羹は勝るとも劣らないと思う。もし東京に店があったら、この価格の倍近い価値はあるのではないか。
なので、ローカルでこのレベルを長年維持していることに脱帽したくなる。
グレーのしゃれた包装紙⇒しっかりした紙箱⇒金文字⇒すだれ包み⇒銀紙⇒本体。すべてに店主のこだわりと矜持(きょうじ)がさり気なく隠れている。
1棹の重さは427グラム。タテ200ミリ、幅55ミリ、厚さ28ミリほど。これで採算が合うのか余計な心配までしてしまう。後継者がいるのかもわからない。
もう一品、「大納言」(1棹 税別1200円)をいただく。「とらや」の「夜の梅」とほとんど同じ小豆羊羹だが、あえて言うと、コスパはこちらの方が上だと思う。
丹波系の大納言小豆が「闇夜の梅」のように、煉り羊羹の中にぽつりぽつりと咲いて(煉り込まれて)いる。
サイズは栗羊羹と同じだが、重さは419グラムと気持ち軽め。
なめらかな羊羹の粒子を舌に感じる。蜜煮した大納言小豆の風味がやや強め。上質で柔らかな、深いねっとり感。甘すぎず、ほどよい甘さ。
6代目は多くを語らないが、エンマ棒で羊羹を練り上げていく作業は根気と集中力がかなりいる。砂糖焼けしないように手を動かし続け、銅釜から一瞬たりとも目が離せない。それを長年黙々と続けている。すごいこと。
最中やどら焼き、饅頭、水ようかんなども作っているが、添加物などは使わず、それらのレベルも高い。
素材は国産。それも地場の小豆にこだわっているようだ。
3年ほど前、たまたま佐野市内をブラ歩きしていて、この店に出会った。以来、折に触れて訪れている。
市内の閑散はどこかうら寂しく、過日の面影はないが、こういうとんでもない名店がひょいと隠れている。メディアにもあまり出ないようだ。
あんこの神様はどこにいる?
所在地 栃木・佐野市万町2770
最寄駅 JR両毛線佐野駅、東武佐野線佐野市駅から歩約10~15分