京都と並ぶ人気地帯、古都鎌倉の観光客ラッシュはなるべくなら避けて通りたい。
だが、あんこ旅は甘くはない(笑)。あんこの神様は許してくれない。
どうしても寄りたい店が2軒ある。
その一軒が老舗和菓子処「長嶋家(ながしまや)」。
鎌倉の中でも最も人出の多い「小町通り」に昭和のままの渋い店構えで孤高を守り抜いている。その曲げない志が脱帽もの。
マガジンハウス刊「ブルータス」(2013年11月1日号)のあんこ特集でも「あわ大福(こしあん)」がちらりと取り上げられている。
今回が二度目の訪問となる。前回は売り切れていた。
なので、今回はほぼオープンと同時、午前10時過ぎにたどり着いた。
★ゲットしたキラ星
あわ大福(小倉あん)270円
(こしあん)270円
水ようかん 340円
胡桃もち 395円
わらび餅 390円
黄味しぐれ 350円
※すべて持ち帰り税込み価格
【センターは?】
あわ大福:昔ながらの丁寧な造り
小倉あん(写真左側)とこしあん(右側)を2個ずつゲットした。
時間差で味わいの変化を楽しむため。
〈1回目 当日〉
長嶋家の凄いところは、本物の粟(あわ)を使っているところ。ほとんどの店は粟が希少で手に入りにくいため黍(きび)で代用していると言われる。
しかも昔ながらの石臼杵搗きという頑固さ。
なので、小ぶりだが、安くはない。
ごらんの通り、自然な色で、サイズは約50ミリ×50ミリ。厚さは30ミリほど。
餅粉がほどよくかかっていて、手で触ると、驚くほど柔らかい。
油断すると手にくっつく。
「今日中、早めに召し上がってください」(4代目店主)
小倉あんは中のあんこがうっすらと見え、こしあんはかすかにその存在が窺える。
よく見ると、何とも言えないオーラが見える。
●味わい あわ餅は搗きたてから約4時間ほど経過していたが、まだ十二分に柔らかい。
伸びの凄さ。
ほんのりと粟(あわ)の風味が来る。
小倉あんは柔らかな粒々が口の中で全開するようで、4代目の和菓子職人としての手のいい香りがするよう。
小豆は希少な北海道産フジムラサキを使用。砂糖は粒の大きい白ザラメ。
今も銅鍋とエンマ棒であんこを練っているとか。
その頑固なまでのこだわり方に脱帽したくなる。
甘さはほどよく、あずき感が素朴に押し寄せてくる。
粟餅との絶妙な合体。
少々高くても納得。
こしあんは小倉あんとは別物、と言いたくなるほど、色も味わいも淡い。
高貴に淡い、と言った方が近い。
柔らかな小豆が点々と混じっていて、素朴さもきちんと入れている。
ディープなあんこ好きにはやや物足りないかもしれないが、私はこの淡さの絶妙を感じる。
ほお~、が何度も出てくる。
〈2回目 翌日〉
餅はすっかり固くなっていて(無添加づくりの本物とわかる)、オーブントースターで炙ることにした。
大福のもう一つの楽しみ方。
●味わい 炙ることによって、粟餅の風味がより強く出てくる気がする。
パリパリと表現したくなる固さ。
これが意外と美味。
炙ると、こしあんの高貴さよりも小倉あんの野暮が私には心地よい。
こしあんよりも濃厚なあんこ。
熱々を少し冷ましてじっくりと味わう。
このあわ大福は二度楽しめる。
ぜいたくな時間。
☆あんヒストリー
「長嶋家」の創業は大正10年(1921年)。現在4代目。創業当時を想うと、その百年後、このエリアがこれほどの賑わい(外国人観光客も多い)になるとは想像できなかったに違いない。季節の餅菓子から上生菓子まで素材選びから製法まで頑固にこだわりを守り続けている。そこだけ昭和の世界が私の目には何か大事なものを守り続けている、と感じる。
【サイドは?】
水ようかん:藤紫色のあまりに高貴な、儚さと紙一重の、素晴らしき水ようかんだと思う。
希少な小豆を使っているので、フツーの水ようかんと色が全然違う。
淡いこしあんと寒天の絶妙な配合。
寒天の他に吉野葛も使っているような。
舌に残る余韻もあまりにやさしい。
貴種の水ようかん、というのも確かにある。
胡桃もち:くるみの細かいかけらが練り込まれた柔らかな餅。中はこしあん。
くるみの歯触りと風味が効いていて、淡いこしあんと絶妙なマリアージュをつくっている。
わらび餅:青きな粉のかかり具合がうぐいす餅のよう。中はつぶあん。これも甘さは控えめで、どこか奈良・大和郡山の超老舗「菊屋」の城之口餅を思い起こしてしまった。
素朴で上質な美味さ。
黄味しぐれ:白あんと卵の黄身、上新粉の割合が素朴で、中の淡いこしあんとのマリアージュが私のあんこころにフィットした。
口の中で混じり合い、スーッと溶けていく感覚が素晴らしい。
いい意味でこの地味さに4代目の誠実さが見える。
「長嶋家」
所在地 鎌倉市小町1-5-8
最寄り駅 JR鎌倉駅から歩約2~3分