こう言っては何だが、茨城・水戸の名物「水戸の梅」はありふれた観光名物の一つ、だと思っていた。白あんを紫蘇の葉で包んだだけの、甘酸っぱい小粒な郷土菓子。
バカと思い込みに付ける薬はない(自分がその一人なので、さらに付ける薬がない)。
それが一変してしまった。
南町にある御菓子司「木村屋本店」での出会い。
暖簾をくぐるなり、明治・大正を思わせるセピア色の店内に「つかまれて」しまった。古都の老舗和菓子屋の気配が隅々まで及んでいる・・・ように思えた。しかも敷居が高くない。
餅菓子や上生菓子が年季の入ったガラスケースに並ぶ。
その片隅に小粒な「水戸の梅」が渋い輝きを放っていた。過去に何度か食べた水戸の梅とは別物に見えた。
1個から買えるが、箱入りの6個入り(税込み780円)を買い求めた。プラスチックではなく、経木の箱入り。この胸のときめきは何だ?
生菓子なので、賞味期限は約1週間。家に帰ってから、賞味してみた。
1個の大きさは縦横3センチほど。厚さは2センチほど。
ジャリッとした砂糖がしっかりとまぶしてあり、付属の「御ようじ」で口に運ぶ。
面白いことにここは白あんではなく、こしあん。蜜煮した柔らかな紫蘇(しそ)の香りとなめらかなこしあん。渋切りをしっかりしている、きれいな濃い目の風味。よく見ると半透明な求肥(ぎゅうひ)が膜のように、こしあんを包んでいる。
ややもすると、あんこの風味が紫蘇の香りに負けてしまうが、際どいところでバランスが取れていると思う。妙な甘酸っぱさもない。すべてが上質な柔らかさ。
ていねいな和菓子職人の姿が浮かんだ。
これは京都の茶会に出してもおかしくない上生菓子だよ。水戸の奥も深いなあ。
店は創業が万延元年(1860年)。現在5代目で、そのご子息6代目も朝早くから熟練の技を受け継いでいる。職人の手の匂いのする老舗に出会うとうれしい。
ていねいな仕事ぶりは、例えば、紫蘇の葉。塩漬けした紫蘇の葉を仕入れ、それを塩抜きし、1週間から10日ほどかけて繰り返し何度も蜜煮する。さらに葉脈を手作業で取るという。何かが違うと感じたその舞台裏を知って、なるほど、と思う。
和菓子屋の命、あんこも銅鍋で毎日炊いている。小さな1個に店主の思いがギッシリこもっている、と思わざるを得ない。水戸の烈公も泉下で喜んでいる?
ショーケースの中に伝統餅菓子「亥の子餅(いのこもち)」(こしあん入り 同170円)もあったので、それも買ってきた。今年は波乱のイノシシ年。これを食べながら、いい年になることを祈ることにしよう。(正座し直して)遅ればせながら、本年もよろしくお願いいたします。
序在地 茨城・水戸市南町1-2-21
最寄駅 JR水戸駅北口歩約7~8分