うぐいす餅の季節がやって来た。
大寒が近いというのに、あんこ好きにはたまらん季節である。
ちょっと面白い、孤高の和菓子屋がある。田んぼの中の一軒家。首都圏でも通好みの評価も高い。そのうぐいす餅がこれ。
埼玉・春日部市郊外。田んぼの中を道路が一本走っていて、赤いのぼりが寒風に揺れている。「営業中」の文字。
ごくありふれた、田舎の古い一軒家。ここの一階一部分が「生和菓子 細井(ほそい)」で、言われなければ気が付かない。地味もここまでくると、脱帽したくなる。
だが、ここの店主は東京・阿佐ヶ谷「うさぎや」で修業した後に独立という経歴の持ち主。
なので、どら焼きが目玉。埼玉一の美味さという人も多い。
6年ほど前に噂を聞いて、どら焼きと酒饅頭を食べてみた。皮はもちろんのこと、あんこの美味さが際立っていて、いい仕事をしてるな、と感心した。
今回はそれ以来の訪問。シンプルな、白い暖簾と利休好みの小さな店内。ケースには生菓子が7種類しか置いていない。季節によってそれが変わる。
うぐいす餅(税込み 1個130円)ときんつば(同120円)、それに黒豆大福(同 130円)を2個ずつ買い求めた。一日に作る数が限られているので、事前に予約しておいた。売り切れごめんの店。6年前と変わらない価格にちょっと驚く。
賞味期限がその日中なので、自宅に持ち帰って、心を落ち着けてから、まずはうぐいす餅。
小ぶりだが、国産青きな粉がきれいで、求肥餅の柔らかさが見て取れた。その奥にうっすらとあんこが透けている。夕方の光より一筋の朝陽が似合うような、職人の仕事。相変わらずいい仕事をしてるなあ、と印象は変わらない。
口に運ぶと、国産青きな粉の風味がまず来て、追い打ちをかけるようにあまりに柔らかな求肥餅が来る。
あんこはこしあんで、しっとりとしたなめらかさがひと味違う。気持ち甘め。ほのかな塩気。
だが、6年前に感じた吹き上がってくるようなあんこの風味が来ない。ふつうに美味い。超スーパーではない・・・大関から関脇になった感じ。
つぶしあんのきんつば(丸型)も黒豆大福も見事な作りなのに、あんこが以前ほどの感動が来ない。あるいはこちらの舌がおかしくなったのかもしれない。
気になって店主に聞いてみた。
「小豆は北海道十勝産を使ってますが、長雨の影響もあって、今年は小豆の質が少し落ちてます。そこが難しいところです」
和菓子職人の苦悩がにじみ出た気がして、それ以上聞くのをやめた。
とはいえ、これほどの生菓子をこの安さで作り続けるのは富士山をスニーカーで登るような困難に近いと思う。手抜きがないのはすぐにわかる。
いい和菓子職人の技と心意気をこれからも見守りたい(ちょっとエラソーに言ってしまった)。
所在地 埼玉・春日部市上金崎18