三鷹に住んでいたとき、吉祥寺は散歩エリアで、今も大好きな街の一つ。
若者の街だが、いい和菓子屋、隠れた名店も多い。
中でも「吉祥寺虎屋」は私にとっては宝石箱の一つ。
寒風のなか、久しぶりに舞い降りて(という気分)、ハーモニカ横丁をブラ歩き、「小ざさ」に立ち寄り、さらにダイヤ街へ。いい活気が流れている。
目的は「吉祥寺虎屋」。
オーラに包まれた、いい店構え。
この季節しかつくらない「亥の子餅(いのこもち)」や「栗むし羊羹」などの品書きが私のあんこころにじわりと迫ってきた。あんこの神様の気配。
虎屋と言えば「赤坂とらや」が有名だが、中央線沿線では創業80年近いこの「吉祥寺虎屋」が私の中ではいぶし銀的存在。
★ゲットしたキラ星
亥の子餅(いのこもち)249円
栗羊羹(小棹) 361円
里の栗(栗饅頭) 303円
蓬莱(焼き菓子)270円
※すべて税込み価格です。
【センターは?】
亥の子餅(いのこもち):羽二重餅とこしあんの絶妙に心まで洗われる
亥の子餅は平安時代から宮中の行事菓子。亥の子の季節(旧暦10月=現在は11月)に食べると無病息災、子孫繁栄につながるといわれる。
11月の季節限定でつくる和菓子屋さんも少なくない。
店によって製法も味わいも微妙に違うが、イノシシ(猪の子)を形どっているというのが共通している。
吉祥寺虎屋のものはごらんの通り、見た目からいぶし銀のフォルムでイノシシ模様の点々とほんのりグレーがかった色あいがとてもいい。
夢のような餅粉のかかり方。
羽二重餅(ぎゅうひ餅)の奥からうっすらと見えるこしあんの気配に胸のあんこセンサーがピコピコ。
サイズは約50ミリ×55ミリほど。重さは58グラムほど。
実食タイム 無作法を承知で手に乗せると、餅の柔らかさと重さがしっかりと来る。
真ん中で切ってみたら、ぎっしりと詰まったこしあん(自家製)の美しさに軽く驚かされる。
上品な藤紫色。あんこづくりのレベルの高さを感じる。
素材を聞いたら、北海道産あずき×白ザラメ。
淡い、すっきりした甘さで、羽二重餅とこしあんのマリアージュがとても上質。
よく見ると餅には黒ゴマや栗などが練りこまれていて、小うるさい謂れを知らなくても実に美味しい。
無添加づくりなので日持ちがしない。
栗羊羹:竹皮模様の包みを解くと、白い厚紙が現れ、さらに解くと銀紙が現れる。
ていねいな仕事ぶり。
羊羹類は4種類ほどあるが、季節限定なので、この栗羊羹を選んでみた。
小棹なので、サイズは108ミリ×55ミリ×40ミリほど。重さは銀紙込みで約307グラム。
実食タイム やや明るめの煉りの夜空に月(蜜煮栗)がぼこりぼこりと浮かんでいる。
包丁で切ると、断面がすっきりしていて、しかもどこかやさしい。
栗は国産栗でやや固めに仕上げられている。
その瓦解する歯触りと煉り羊羹のやさしい食感が栗羊羹の美味さを保証している。
口の中で広がる栗と煉りの合体。その穏やかな風味の広がり。
こちらも雑味のない上品な味わいで、この店の職人さんの技術力が確かなものと実感する。
追記:後日、追加取材を試みたら、たまたま2代目がお出になって、素材へのこだわり(小豆は主に希少な能登大納言を使用、商品によって北海道産小豆と併用)や製法などを丁寧に説明してくれた。砂糖も白ザラメ、上白糖、グラニュー糖を使い分け。すごい和菓子職人さんだった。
●あんヒストリー
創業は昭和22年(1947年)。現在3代目。最初はハーモニカ横丁で店を出し、その後ダイヤ街に移転し、工場のある弁天通りに本店を開設している。本店には「吉祥寺茶寮(甘味処)も併設している。
【サイドは?】
里の栗:季節限定一粒栗の栗まんじゅう
栗の形と引き込まれるようなつややかな焼き色。
中は半生の白あん。
国産栗を使い、小麦粉ベースの生地との合体はほどよい甘さで、歯を立てるたびに舌の上で瓦解する感触がとてもいい。
栗と白あんの間隙を縫うようにクリーミーな風味すら感じる。
菓銘のこだわりも上菓子屋の系譜を感じさせる。
蓬莱(ほうらい):中はこしあんの焼き菓子
表面の虎模様がクール。
食べながら唾液がどんどん出てくる。
ほどよい甘さの、くちどけのいい焼き菓子で、コーヒーとも合うと思う。
「吉祥寺虎屋」(ダイヤ街アルファ店)
最寄り駅 JR吉祥寺駅北口から歩約2分