あんこ旅の途中で、ちょっと驚きの練り羊羹に出会った。
創業が天保3年(1832年)の老舗「松林軒 豊嶋家(しょうりんけん とよしまや)」の暖簾をくぐったところ、「今昔きんつば」や饅頭、上生菓子がキラキラと光っていた(ように見えた)。
店構えといい、店内の佇まいといい、いい和菓子屋さん共通の匂い。
そこに丹波大納言入りの「小豆練り羊羹」(1棹 税込み1400円)のお姿(後光が刺していたかもしれない)。
こ、これは。
お盆に向けて、このシーズンだけ作られている、きわめてレアな練り羊羹だとわかった。
二日後に自宅で賞味となった。
竹皮に包まれ、さらにビニールでくるまれていた。丁寧なこだわり方。
取ると、銀紙の台の上に見事な小倉色の練り羊羹が現れた。
生羊羹のような、テカリ。蜜の気配。
大納言小豆が点々と、星座のように練り羊羹の中に閉じ込められていた。
長さを測ると、縦180ミリ、幅35ミリ、厚さ35ミリほど。
切り分けて食べる。
何よりもきめの細やかさと口溶けがいい。
ほどよい甘さとほんのりと塩気。
天然の糸寒天とこしあんの配合が絶妙という他はない。
それに蜜煮した丹波大納言。今どき、これらの素材を使うだけでも相当な努力が必要だと思う。それらが小豆のきれいな風味を加速させていると思う。
添加物などはない。
正直に言うと、いきなりかような練り羊羹に出会えるとは想像もしていなかった。
あんこの神様のいたずらかもしれない。
店を訪ねたときのこと。たまたま女将さんがいたので、あれこれ雑談。砂糖には和三盆も加えているそうで、素材へのこだわりが半端ではないことがわかった。
息子さんが6代目で、和菓子職人としての腕も斬新と見た。
さり気なく昆布茶を出してくれ、そこで「今昔きんつば」もいただいた。このきんつばも江戸のきんつばを再現したもので、ドンピシャ好みだった。
甲州ぶどうを使った和スイーツ「月の雫(しずく)」がこの店の目玉の一つだが、私の目にはあんこ菓子しか映らない。困ったもんだが(笑)。
竹皮の香りとともに、大納言小豆入り「小豆練り羊羹」の黒光りが頭から離れない。
所在地 山梨・甲府市中央1-14-3