あんこ旅の途中で見つけたのがこれ。
当たりの出会い?
猫も歩けばあんこに当たる。
山形・山寺の参道入り口にある「商正堂(しょうせいどう)」の「金つば」(1個 税込み170円)。
四角ではなく、江戸時代から続く元々の形、丸い金つばである。日本橋の老舗「榮太樓(えいたろう)」の「名代金鍔(なだいきんつば)」とほとんど同じ形。
これは想定外の場所でシーラカンスに出会ってしまったようなもの、と言いたくなる。ちょっとオーバーかな? でもまあそれに近い感覚。
「商正堂」は山寺御用達の和菓子屋さんで、創業約百年になる。敷居はそう高くはない。
たまたま金つばを焼いていた3代目の鮮やかな手つきに見惚れていると、女性店員さんがお茶を出してくれた。
ジャンボ焼きまんじゅうやここの名物「もろこし」(小豆の粉と砂糖で作った焼き菓子)をお土産に買ったものの、どうしても「金つば」が気になった。
とにかく見ていただきたい。
小麦を溶いた皮はピュアなミルク色で、焼き焦げが1ミリもない。
私は焼き色のある、ごつごつしたきんつばも好きだが、これは東京・浅草「徳太楼(とくたろう)」と同じ、きれいな、上生菓子のようなきんつば。
しかも昔の形のまま。
どうしても焼き立てを店の一角で賞味したくなった。
甘い、金色の時間。BGMはG線上のアリアがいいかな。
中のあんこが透ける薄い皮を割ると、中から大粒の小豆とつぶしあんが現れた。
がぶりと行く。
塩加減の効いた、ふくよかな上質のあんこが口の中で柔らかく溶けていく。
控えめな甘さ。というより塩がベースにあって、小豆の風味を見事に引き立てている。そんな感じ。
食べながら大好きな東京・麹町「一元屋」の塩きんつばをつい思い出す。だが、ここは榮太樓と同じく、寒天は使用していない。江戸時代とほとんど同じ作り方。
これは絶品の塩きんつばだと思う。
食べながらよくよく見ると、大粒の小豆がくっきりとあり、そこにこしあんを絶妙にブレンドしているのではないか? そう思わせるような、繊細なあんこ作り。
3代目の腕は確かのようだ。
小豆は北海道産、砂糖は上白糖、塩は? 3代目が忙しそうだったので、聞き逃してしまったが、塩もこだわりがあると思う。
閑さや岩にしみ入る蝉の声
松尾芭蕉が山寺でつくったあまりに有名な一句だが、あんこ好きの私にとっては、この句が
閑さや鍋にしみ入る餡の声
と聞こえてくるのだった。
所在地 山形市大字山寺