昭和の終わりに「いちご大福」が登場して以来、大福の概念が変わったと思う。
これは和菓子の歴史上、すごいことだと思う。
大福といちごが合体するなんて。
和菓子界におけるコペルニクス的転回・・・ちょっとオーバーかもしれないが、デビュー後たった30数年ほどで、今ではほとんどの和菓子屋さんの定番になっていることを考えると、やはりこれはあんパンの登場以来の歴史的「事件」だと思う。
で、パイナップル大福。いちご大福の成功以来、フルーツ大福が次々と登場しているが、私が今ハマっているのが「竹隆庵岡埜(ちくりゅうあんおかの)」の「パイナップル大福」(税別300円)である。
まずは実物を見てほしい。
完熟のパイナップルを白いんげん豆のこしあんでくるんで、それを柔らかな羽二重餅で手包みしている。
夏限定、というのがそそられる。無添加なので、賞味期限は翌日まで。
食べる1時間ほど前に冷蔵庫で冷やし、包装を取ると、ふっくらとした大きめの大福が現れる。きれいな黄色(クチナシで着色?)に雪のような餅粉がうっすら。
真ん中から切ると、角切りの完熟パイナップルが金色の蜜を滴らせている。
その周りを柔らかな白あんが包んでいる。
まるでパイナップル版かぐや姫だよ。
ミスマッチではないことが、口に入れた瞬間、すぐわかる。
パインの蜜と白あんの控えめな甘さと風味、それに柔らかな求肥餅が口の中で絶妙な化学変化を起こす。個人的な感想だが、いちご大福よりも熟成した果実味が
ぐわん、ぐわん、ぐわわーん
と押し寄せてくる(そんな感じ)。
ある種、爆発的な組み合わせだと思う。
反則すれすれ、コロンブスの卵ってこと?
食べ終えると、みずみずしい、きれいな余韻が残る。
「竹隆庵岡埜」の創業は昭和33年(1958年)と比較的新しい。現在2代目。初代が谷中岡埜栄泉で修業した後に現在の地(根岸)に独立という経歴を持つ。ルーツをたどると上野岡埜栄泉(うえのおかのえいせん)に行き着く。
「こごめ大福」がこの店の目玉だが、季節ごとに替わるフルーツ大福の注目度も高い。9月にはぶどう大福に切り替わる。
2代目はチャレンジ精神が旺盛なようで、伝統を守りながら、新たな和スイーツの可能性を感じさせてくれる。
夏塩あん(白あん)を使った「とらが焼き(どら焼き)」(同220円)と希少な白小豆を使った「白きんつば」(同220円)もチャレンジ精神が生んだ逸品。
白あんの種類が三種三様で、それぞれが面白い味わいを生んでいると思う。
店舗も少しずつ増え、東京の下町をメーンに円で囲むように今や10店舗。
これ以上は暖簾を広げてほしくない気がする。
手の匂いのするあんこ職人好きの勝手な願いだが、別の角度から見ると、和スイーツの未来を考えるうえで、注目の店の一つではある。
所在地 東京・台東区根岸4-7-2