その歴史も含めて広く深い饅頭の森のなかでも、きわめて異色なのが上州の「焼きまんじゅう」。
甘味噌だれを付けて、竹串刺しにして焼き上げるという、およそ饅頭のイメージとはかけ離れたスタイルが群馬県民以外には「これってホントに饅頭なの?」と驚きを与える。
特に「秘密のケンミンショー」などテレビで取り上げられてからはいじられネタになったりもした。恥ずかしながら私もその一人でした(反省)。
だが、実際に味わってみたら、これが実にうまい!
以来、前言撤回。焼きまんじゅうのファンになった。
レアなあんこ入りもある。
これがまたたまらない。これまでの常識が反転する。
今回ご紹介したいのは、その元祖とも言われる、群馬・沼田市「東見屋」(とうみや)の「味噌まんじゅう」です。
すぐに硬くなるので、店先で焼き立てを味わうのがベストだと思う。
★今回ゲットしたキラ星
味噌まんじゅう(1串4個) 240円
あん入り(1串3個) 390円
※いずれも税込み価格
【センターは?】
生地は酒種で発酵、自家製こしあん入りの絶妙度
たまたま夏祭りの真っ最中だったので、店先の木のテーブルで心地よいミストシャワーを軽く受けながらの試食となった。
昭和的な情緒がジンと来る。
先祖代々の作り方を受け継ぎ、天然酵母(酒種)でじっくり寝かせた小麦粉ベースの生地に秘伝の濃厚な甘味噌だれをたっぷり付け、炭火で焼き上げる。
香ばしい匂いに食欲中枢が鷲づかみされる、そんな感覚。
●あん(こしあん)入り
1串3個があん入り(下の写真右側)。直径約70ミリほどのほぼ円形で、少し大きい。厚みは20~25ミリほど。竹串は基本的に店でしか味わえない。
生唾がどんどん出てくるのがわかった。
独特の竹のフォークで一個ずつ外して、かぶりつく。
水飴やザラメを加えた代々の味噌だれが、もっちりとした酒種の生地とタッグを組んで、これだけで十分美味しいのに、中のピュアなこしあんと一緒になって、1∔1=3の花園あんあん状態を脳内に出現させるよう。
こしあんは甘すぎない、小豆のいい風味がしっかりと残る。気品さえ感じる。
濃厚な甘味噌だれの生地に一瞬だけ負けそうになるが、しなやかに主張する。
あんこ造りにも手抜きが見えない。
見かけは野暮ったいが、中身は洗練を感じる。
「発酵に糀(こうじ)を使ってじっくりと造っている店は少ないですよ。こしあんの小豆も北海道産です」(女性スタッフ)
酒饅頭に甘味噌だれを塗って、炭火で焼き上げたもの、と考えると、これは隠れた、進化系酒まんじゅうとも言えると思う。
一歩下がってよく見ると、味噌だれをよく使う京都にも通じるような、上用まんじゅうの発展形・・・と言えなくもない(京都は白味噌が多い)。
あの千利休も茶会で出す麩の焼きに味噌だれを使っている。
京都ー沼田の点と線。粋と野暮の点と線。
個人的には沼田は「天空の城下町」なので、「天空の蜜会」と表現したくもなる。
●あんヒストリー
創業は何と文政8年(1825年)とか。現在7代目。群馬の中でも指折りの老舗。焼き場には店主の娘さん(?)が手慣れた手つきで注文を受けてから焼き始める。継ぎ足しの甘味噌だれにくぐらせる。おもしろいのは群馬の地域によって「焼きまんじゅう」(前橋、太田、伊勢崎など)と表記したり「味噌まんじゅう」(主に北部)と表記したり。沼田は「味噌まんじゅう」。「元祖」が付くのも店で味わうと実感できる。
【セカンドは?】
定番の味噌まんじゅう(一串4個 あんなし)。
形は楕円で、あん入りよりも少し小さい。
だが、酒種でじっくりと発酵させたふかふか生地と甘味噌だれのコラボが絶妙というほかはない。小麦粉の風味。素朴でシンプルな味わい。
《小豆のつぶやき》
▼今回は食べれなかったが品書きに「京まんじゅう」(1個売り 120円)もある。▼京都から伝わったという酒饅頭で、これを食べ忘れたのが悔やまれる。▼だが、あん入り(1串3個)はこれに甘味噌だれを付けて焼いたものなので、その上質な美味さは想像できる。▼「天空の城下町」沼田がただの城下町ではないことがわかる。
「東見屋」
所在地 群馬・沼田市下之町875-7