ローカルには「宝石」が埋まっている。
あんこ旅のボーナスみたいなもの、と言えなくもない。
今回は旧中山道・松井田宿(群馬・安中市)で見つけた、スグレモノを取り上げたい。
明治7年(1874年)創業の「たわらや」。
ポツンと一軒家、ではないが、往年のにぎわいはない。
いい店構え。白地の日除けのれん。
私のテーマの一つでもある「幻の酒まんじゅうを求めて」の延長線上。昔ながらの酒まんじゅう造りを続ける和菓子屋さんの一つとして、以前から狙い定めていた店でもある。
現在3代目(4代目も修業中)。
実際に足を一歩踏み入れたら、「温故知新」の額が掲げてあり、進取の気性に富んだ店と直感した。当たり、の予感。
饅頭類から上生菓子まで、店主のこだわりが伝わって来た。
人が少ないのに、常連客がほとんど絶え間なくやって来る。
・今回ゲットしたキラ星たち
酒まん 税込み130円×3個
塩もなか 同162円×3個
栗むし羊羹 同1863円(1棹)
【センターは?】
3代目の創作最中「塩もなか」の驚き
買い求めた3種類のキラ星はいずれもレベルが高く、3代目の和菓子職人としてのプロフェッショナルぶりが詰まったもの。
なので、どれをセンターに持ってきても十分に満足できると思う。
迷った末に、選んだのがこれ。
他にはない、まさに温故知新を凝縮したような「塩もなか」。
皮だねと中のあんこを分けているが、これはそう珍しいことではない。
すごいなと思ったのは、中のあんこ。
店では「饅頭」と呼んでいるようだが、これは私の体験では生菓子の「蒸しきんつば」に近い。丸い蒸しきんつば。
ごらんの通り、自家製の小倉餡(こしあん+つぶあん)を半透明の膜で包み込んでいる。
見ているだけで引き込まれそうな小宇宙。
これをパリパリの皮だねで挟んで食べる。
「塩もなか」のネーミングがど真ん中に来た。
何という絶妙な塩気と小倉餡!
もなかはかなり食べているが、これは「アイデア、技術、味わい」がトリプルAクラスではないかと思う。
塩味のあんこの美味さが「突き抜けている」印象。
いい小豆の風味が舌の上で渦を巻くのがわかった(ホントです)。
あんこの小豆は北海道産、砂糖はグラニュー糖、塩はペルシャ岩塩を仕上げの段階で振りかけているようだ。素材のこだわり方。
これだけ塩気の効いた小倉餡と出会えることはそう多くはないと思う。
東京・麹町「一元屋」の塩きんつば、信州・下諏訪「新鶴本店」の塩羊羹が頭に浮かんだ。私にとってはそのくらい、意外性のある出会い。
半透明の蒸しきんつば状のあんこの絶妙な広がり。
あんこ旅を続けていて、よかった、と思える瞬間でもある。
【セカンドは酒まん】
元種(米+こうじ)から手造りしているのが驚きだが、手間暇を惜しまないのがいい酒まんじゅうの条件でもある。
3代目によると、もともと2代目が造っていたもの。たまたまそのレシピが出てきて、それをもとに3代目がさらに工夫して今の形にしたものとか。
ごらんの通り、皮の艶やかさがまず違う。
造りたてを1個だけ店内で試食してみた。
元種のいい香りがふわりと来た。
小麦粉に餅粉も加えているようで、絶妙なもっちり感がとてもいい。
皮だけでも十分にうまい。
寝かしのよく効いた、人肌の味わい。
中のこしあんは甘さを抑えていて、いい小豆の風味がすっと入ってくる。
塩気はない。きれいな余韻。
これほどの酒饅頭が松井田に眠っていることに正直驚く。
賞味期限は2日間なので、翌日、自宅に戻ってからさらに賞味してみた。
香りといい味わいといい、ほとんど変化はなかった。私にとってはスーパーな発見。
【おまけ】
季節の和菓子:栗むし羊羹
たまたま「おまけ」にしてしまったが、これも素晴らしい和栗の栗むし羊羹で、早やシーズン突入。
栗がぼこぼこ、見事な小倉色の蒸し羊羹部分には蜜煮した大粒小豆が夜の梅のようにポツポツと咲いている。
こしあんの存在感。栗とのマッチングがどこかやさしい。絶妙なもちもち感。
蒸かすのに1時間以上かけているとか。それが柔らかな歯触りとともに、口の中で広がる感触はレベルを超えていると思う。
塩気がほんのり。
賞味期限は約1週間。冷蔵庫で冷やしてからいただくと、その瞬間、残暑もコロナも消える(個人的な感覚です)。
ローカルのいい出会い。だから、あんこ旅はやめられない。
「たわらや」