豆大福とうぐいす餅、それにきんつば。
あんこ好きにとってはこの時期、ゴールデントライアングルだと思う。
桜餅も欲しいところだが、欲張ってはいけない。
東海道あんこ旅の途中、静岡・沼津駅前で足がピタリと止まった。
「焼きだんご」のノボリが寒風にはためき、ふと目を移動すると、いい店構えの和菓子屋さんが「おいで」と流し目をくれた(気がした)。
こういう出会いは何かある。
それが明治元年(1868年)創業の「和菓子 甘味処 村上屋」だった。
創業当時から作っているという豆大福、うぐいす餅(税込み 各180円)などがレトロな木箱にきれいに収まっていた。ひと目で思考停止状態。あんこ愛の鐘が鳴り始める。きんこんかんあん。
それがこれ。
お江戸日本橋から12番目の宿場、沼津宿。今でこそかつての賑わいはないが、こういう和菓子屋が暖簾を守っていることがうれしい。
テイクアウトだが、奥が甘味処になっていて、そこで飲み物(別料金)を頼めばじっくりと吟味することもできる。
これだけの店なのに客の少なさが気になった(たまたまかもしれないが)。
すべて自家製で、一目でプロの和菓子職人の気配を感じた。すべてが大きめ。
豆大福は餅の柔らかな美味さ、黒々とした赤えんどう豆、中のつぶしあんのボリュームと質、三拍子がそろっていて、東京の名店とそん色がない。塩気もほんのりあり、江戸・東京の匂いが立ち上がってくる。
やや甘めのつぶしあんは素朴で、明治元年創業の手作り感にあふれている。
うぐいす餅はこしあんで、抹茶を練り込んだ求肥餅ときな粉のバランスがよく取れている。素材へのこだわり。
もっとも気に入ったのは「きんつば」(同 200円)。オーバーではなく、これは一つの発見だった。
店にいた女将さんが「きんつばは創業当時からあるんですよ。形も作り方もほとんど同じです」と教えてくれた。
丸い、江戸時代からの刀のつばの形で、これが本来のきんつば、である。日本橋「榮太樓総本舗」や信州・飯田市「和泉庄」のきんつばと同じ、江戸時代から続く伝統の形。しかも厚みもある。ちなみに四角のきんつばは明治以降に広がったもの。
このきんつばが私的には絶品だった。皮の薄さ、その手焼き加減、中のつぶしあんのボリューム。寒天は使っていず、あんこの美味さがストレートに伝わってくる。
豆大福と同じつぶしあんを使っているはずだが、微妙にこちらの方が美味く感じるのはなぜか?
あんこの不思議。そういうこともある?
女将さんが「そういう方も確かに多いです。きんつばの皮のグルテンが小豆の風味を濃くしているかもしれませんね」。
あんこは確かに生きている? へえーが出かかる。
現在は5代目。東京でも指折りの老舗和菓子屋で修業し、跡を継いでいることもわかった。
「流行に流されない、素材を生かした和菓子作り」がこの店のモットー。小豆は北海道十勝産、餅米は新潟産こがね米を農家から直送してもらっているそう。
一見すると愛想はないが、こういう和菓子屋さんにたまたま出会えたこと。
うーん、あんこの神様って確かにいるなあ。
所在地 静岡・沼津市大手町5-5-2