一時、フレンチトーストにハマったことがある。
フレンチトーストは官能的、である。
もとい、官能的なフレンチトースト
そう表現した方が正しい、と思う。
酒とバラとスイーツの日々、二、三度ほど、そんな体験をした。
その一つが、東京・池袋「三原堂」の二階で食べた「和風フレンチトースト」である。紅茶付きで920円(税込み)。
「お時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」
女性スタッフの丁寧な対応に、心がときめいた。
池袋三原堂は創業が昭和12年(1937年)。人形町にある三原堂本店(明治10年創業)から暖簾分け、神田三原堂や本郷三原堂などもルーツは人形町本店である。
池袋三原堂の特徴は喫茶コーナー(2階)もあること。これはありがたい。
30分近く待たされて、運ばれてきた「和風フレンチトースト」は、私にとっては「黄金の夢の時間」と言いたくなる代物だった。
金色に輝くフレンチトーストの横に、これまた見事なつぶあんがつややかに正座していたのである。
しかも三つ指ついて(そう見えてしまった)。その隣のバニラアイスが目に入らないほど。こちらも慌てて三つ指をつく・・・のも忘れてしまった。
いい焼き色のフレンチトーストは予想を超えて、本格的なものだった。食パンを新鮮なミルクと卵液にかなりの時間をかけて漬けたことがわかった。和菓子屋のものとは思えないほどの完成度。
焦げたバターのいい匂いがシュワシュワと発散している。夢のようなパウダーシュガー・・・。
ナイフとフォークで食べ始める。黒蜜をかける。柔らかく濃密な美味。
それから本命つぶあんとのコラボレーションへと移行する。
つぶあんはやや甘めで、風味といい、ふくよかさといい、さすが老舗和菓子屋のあんこ、と言いたくなるレベル。沈黙の時間。母音の時間。
使用しているのは多分、北海道産えりも小豆。砂糖は多分白ざらめ。
もう言葉はいらない。という言葉もいらない。
バターの塩とつぶあんの風味、それに黒蜜が想像を超えて、絡み合ってくる。フレンチトーストが昇りつめていく。
バニラアイスも追いかけてくる。
天国に近い場所
それにしてもこのメニュー、いつから?
「もう9年になります」
夢から覚めると、女性スタッフが笑いながら教えてくれた。
所在地 東京・豊島区西池袋1-20-4