今さらだが、京都の和スイーツには驚かされることが多い。
烏丸五条にある「今西軒」のおはぎもその一つ。
ある日のこと。東京の有名デパ地下で買った「仙太郎」のおはぎに感動したことを、京都に住む畏友に話したところ、「そりゃ、結構な話やなあ。でもなあ、京都は仙太郎ではなく、今西軒やで」と鼻先で笑われた。
京都に行ったとき、朝早く起きて、「今西軒」に足を運んだ。
一日に作る数が限られているので、お昼前には売り切れてしまうことが多い、という話を聞いていたからである。
創業が明治32年(1899年)。3代目の時に、後継者がいないことから、平成7年に、一時暖簾を畳んだこともある。
惜しむ声に後を押されるように、平成14年、3代目のお孫さん(現在の5代目)が後を継ぐことになり、店を再開した。
町家づくりの古い建物と「名物おはぎ」と書かれたシンプルな木の看板から歴史がにじみ出てくる。
おはぎは3種類のみ。こしあん、つぶあん、きなこ。それしか売っていない。それぞれ一個190円。
これが文句のつけようがないほど美味い。
きなこ、こしあん、つぶあんの順番で売り切れていく。
引き継がれた手づくりのあんこが洗練されている。
きなこもつぶあんも風味といい、ボリュウムといい、味わいといい、京都の餅菓子の頂点あたりに位置すると思う。
だが、もっとも唸りたくなったのは、こしあんである。
これだけピュアを感じさせるこしあんはそうはない、と思う。
つぶあんは濃い小倉色だが、こしあんは薄茶色。そのまばゆいばかりの分厚さ。
口に入れた途端、雑味のなさに驚かされる。
洗練されたしっとり感。
甘さは控えめで、いい小豆の風味が広がる。塩は使っていない。
小豆は北海道十勝産を使っているようだが、素材を生かすも殺すも、作り手の腕前だと思う。
毎日、銅鍋で一定量しか作らない。すべて手作業。これを百年以上きちんと守っているのが並ではない。
半つきの、粘りのあるもち米とのバランスがとてもいい。
口の中で混じり合い、さわやかな風となって、何処かへと抜けていく。
天国に近いおはぎ?
洗練されたこしあんのおはぎとはこういうものを言う、と改めて思う。
これ見よがしの宣伝も、能書きもない。憎たらしいほど、京都の奥の深さ。
ただ一点、日持ちしないために、その日のうちに食べなければならない。それがとっても残念だが、それ故にこそ、今西軒なのだとも思う。