和菓子界において、山形の老舗「乃し梅本舗 佐藤屋」は面白い位置にいると思う。
創業が文政4年(1821年)、現在8代目。
伝統菓子「乃し梅」を守りながら、斬新な和菓子づくりに挑戦し続けている。
「&プレミアム2月号 あんこと、きなこ」(マガジンハウス刊)で、私とおだんご先生(芝崎本実さん)が「深遠なるあんこワールドへ、いざ」と題して対談した際にも、佐藤屋の創作羊羹「りぶれ」を取り上げている(エラソーですが=笑)。
ラム酒とレモンを大胆に取り入れた二層の黒糖羊羹で、驚きとともに反響も大きかった。
コロナ禍が長かったので、お取り寄せしたものだが、今回、みちのくあんこ旅の途中で初めて本店(山形市)に立ち寄ってみた。
本店は十日町通りという歴史的な一角に古くてモダンな建物があり、その連なるような造りに圧倒された。中身はどうなんだろう?
和菓子ばかりでなく洋菓子コーナーもあり、その和洋折衷ぶりに8代目のチャレンジ精神を感じた。
★ゲットしたキラ星
くろもじ 1棹1200円
くず桜 1個 200円
翆玉(洋+和) 500円
※すべて税別価格です。
【センターは?】
くろもじ:ハーブの香りの創作羊羹×日本酒=?
4年ほど前にこの週刊あんこで取り上げたのは「りぶれ」と「頂(いただき)」だが、そのとき新たな創作羊羹に出会った気分になった。
羊羹の世界に大きな変化が起きていることを実感させられた。
だが、今回は驚くような変化は感じなかった。
むしろ伝統に回帰した印象で、そこがむしろ面白かった。
「くろもじ」という渋い菓銘の煉り羊羹は「ハーブの香り」と説明されていて、その後、自宅に帰ってから試食となったが、見た目は艶やかな小豆色のシンプルなもの。
サイズは150ミリ×35ミリ。重さは250グラムほど。
「りぶれ」や「頂」ほどの斬新さはなく、むしろ静かに粋を極めている印象。
〈味わいは?〉
表面の蜜とテカリ、かすかにハーブ(山椒?)の香り。
菓子楊枝にも使う「黒文字」の葉を乾燥させたものを、練り羊羹に加えていることが説明してあった。
辛くない山椒の香りとも書かれていたが、私はシナモンの気配を感じた。
羊羹に「聞香(もんこう)」の要素を取り入れるということかな?
柔らかな歯ざわり。あっさりした味わい。
上質の水羊羹のようでもある。
香りが口の中にしばらく残る。
シンプルだが、よく考えると、かなり実験的だと思う。
「日本酒との組合せがおススメ」と8代目のコメントが付記されていたので、仕方なく(?)昼間からぐい呑みを出し、楽しんでみた。
羊羹とお酒の組み合わせは珍しいことではないが、作家の開高健おすすめのマッカラン×虎屋の小形羊羹ほどの意外性は感じなかった。
それでも結構イケた。
新しい和菓子の楽しみ方として、前向きの提案ではないかと思う。
【サイドは?】
くず桜:これは伝統的な、朝生菓子の一品。チャレンジングな佐藤屋がこうした伝統を忘れていないことが素晴らしいと思う。
半透明の葛と中のこしあんが塩漬け桜葉に包まれて、ほほ笑みかけるように私の口に入る。
フツーに美味しい。
翆玉(すいぎょく):3層の和と洋の合体。透明なプラスチックの容器に収まっていて、上から柚子クリームのブランマンジェ(生クリームの白いデザート)、抹茶の水ようかん、北海道産つぶあんという3層の構造になっている。
夏の冷たい創作菓子。
三つの味わいが混じり合い、それを舌で受け止める。
個人的には抹茶の水ようかんと最下層のつぶあんの合体が気に入った。
洋菓子好きと和菓子好き、両方に受けそうな味わい。これもチャレンジングな8代目のアイデアとか。
「乃し梅本舗 佐藤屋本店」
最寄り駅 JR山形駅から歩くと約12~15分