今回のあんこ旅の収穫の一つが、青森市の老舗「甘精堂本店」(かんせいどうほんてん)で見つけた、見かけは地味系だが、渋い度数(こういう度数もある?)マックスに近い創作和菓子たち。
素通りしたら気がつかない、和の中に洋が星屑のように詰まっていて、菓子楊枝で食べ進むうちに「すごいすごい」と唸りたくなってきた。意外な展開。
その一つがこれ。
菓銘は「明日成」(あすなろ)とわかりにくいが、中の構造がすごい。
3層構造になっていて、ベースは白あん+アルファだが、カステラ生地をアレンジしていて、表面には・・・青森の粋を凝縮したようなさわやかな余韻が広がる(詳しくは後で)。
ここは「昆布羊羹」で知る人ぞ知る店だが、季節の上生菓子から塩豆大福などの餅菓子、羊羹類、もなか、どら焼き、洋菓子まで店内を見ていくと、凝り方が半端ではないことがわかって来た。
★ゲットしたキラ星たち
津軽りんごのどら焼き 220円
明日成(あすなろ) 220円
福来郎柿(ふくろうがき)400円
かしす羊羹(80グラム)430円
昆布羊羹(1棹)1300円
※すべて税込み価格です。
【センターは?】
二つの創作和菓子の中身がすごかった
●明日成(あすなろ)
和菓子職人とパティシエの融合?と表現したくなる、一見地味なお顔だが、中の中心は白あんベースの創作りんご餡で、りんご(青森産)のピューレ、マーマレード、レーズンを隠し味として練り込んでいる。
それをカステラ生地で上下に挟んでいる。
さらにでん粉をまぶした外側は羊羹生地で、やさしく包み込んでいる。青森の雪化粧にも見える。
大きさは約55ミリ×50ミリの楕円形。重さは63グラム。
切ってから断面を見ると、その凝り方に改めてちょっと驚く。
「うちの職人の技術が生きてます」(店のスタッフ)の言葉をなるほどなあ、と思い返すほど。
味わい:全体的には甘めだが、創作りんご餡はほのかに酸味があり、余韻がさわやか。表面の羊羹が全体をしっとりとまとめている。
●福来郎柿(ふくろうがき)
岐阜や長野、京都などにもある干し柿をアレンジした和菓子だが、凝り方がすごい。
外側は奈良・吉野産の干し柿を枝ごと使い、中は白あんに柿ピューレを加えたいわば柿餡を詰め込んでいる。
表面には上南粉(餅粉ベース)がまぶしてあり、まるで芸術品のように仕上げている。
「フクロウ」は福を招く鳥とされ、「福来郎」「不苦老」「不苦労」にも通じるとか。それを菓銘にしているのもおもしろい。
言われてみれば鳥の「フクロウ」に見えなくもない。
大きさは全体で60ミリ×37ミリほど。重さは54グラム。
味わい:しっとりとした干し柿の自然な甘さ。良質の干し柿。表面の上南粉の粒々した舌触りがとてもいい。
中は白あん(北海道産手亡)だが、柿のピューレとの融合が絶妙で、甘すぎず、オーガニックな深いコクを生んでいる。
同様の和菓子はこれまでも食べているが、ここのは、完成度がトップレベルだと思う。
〈あんヒストリー〉
創業は明治24年(1891年)。現在5代目。これは推測だが、北前船での京都和菓子文化の影響がこの地にも根付いていて、それがどこか洗練を感じさせる菓子づくりに結びついているのではないか。5代目は洋菓子のパティシエでもあり、和と洋の新しい創作菓子が誕生する背景にあると思う。
【サイドは?】
津軽りんごのどら焼き:大きさは左右80ミリほどでやや小ぶり。中のあんこは白あんに蜜煮したりんごをブレンド。マーマレードとレーズンも加えて、ふっくらとしたどら皮といい関係をつくっている。
かしす羊羹:黒すぐり(ブラックベリー)を練り込んだ創作羊羹。歯触りは練り羊羹そのものだが、黒すぐりの果実味がいいアクセントをつくっている。隠し味にカシス酒も使っていて、独特のさわやかな余韻を舌に残す。
《小豆のつぶやき》
▼本記には書かなかったが、入り口に「塩豆大福」の美味しそうな看板があったので、2個買って、夜、ホテルで食べた(賞味期限が本日中だったので)▼塩気のある黒豆がボコボコ入った柔らかな餅も中のつぶあんもふっくらと洗練された味わいだった▼名物の昆布羊羹はいずれご紹介したい▼胃袋が一つしかないことが腹立たしい。
「甘精堂本店」
所在地 青森市本町1丁目13-21