まずは写真をご覧いただきたい。
ルビーのような紅い羊羹が流し込まれた、片面だけの円形の最中(もなか)。
よく見ると表面がうっすらと糖化している。
アートのような美しさ。ため息が出かかった。
これが戦国時代からタイムスリップしたもの?
と言ったらきっと信じる人は少ないだろうなあ。
信長⇒秀吉に仕えた悲運の戦国武将・蒲生氏郷(がもううじさと)の居城「松坂城」跡が残るローカルタウン、松阪市。約10年ぶりの訪問となった。
この地で約430年以上にわたって、暖簾を守り続けている和菓子屋さんがある。
元々は蒲生家御用達の店で、創業が天正3年(1575年)。現在17代目。
「柳屋奉善(やなぎやほうぜん)」。
このルビーのような羊羹もなか「老伴(おいのとも)」はこの店の看板商品で、創業当時から存在していると聞いて、私の驚きはさらに深まった(10年前は知らなかった、汗)。
歴史のある店構え。
店内に入ると、私の驚きはさらにさらに深まった。
不思議系のあんぱん(自家製)が数種類ほど並んでいた。
あんぱん好きのハートに刺さるような光景。
400年を超える新旧のあんこが時空を超えて、ここで交錯していた。
・ゲットしたキラ星
大老伴(だいおいのとも) 一枚税込み410円
鈴あんぱん2種類 同120円
あんバターサンド 同250円
【センターは?】
旧の代表:老伴(大)のルーツと深い味わい
「老伴(おいのとも)」は大きさが大小2種類あり、たまたま店頭にいらした17代目の奥さんによると「昔からずっとあるのは大のほうなんですよ」とか。
フツーサイズの2倍以上の大きさ。
羊羹もなかなので、賞味期限が少し長い。なので、ゲットしてから2週間後に自宅で賞味した。
大きさは左右約110ミリほど。厚さは約13ミリ。
表と裏を見比べる。
400年以上、ほとんどこのままとは・・・こういうもなかはこれまで見たことがない。これからも?
製法が面白い。
もなか種(皮)に自家製の紅練り羊羹を流し込む。
冷めたら表面を糖蜜で薄くコーティングしてから乾燥させ⇒出来上がり。
紅練り羊羹は白あん(北海道産てぼう豆)に紅麹で着色したもの。
●味わいは?
もなか種は香ばしく、やや固めでさくさくしている。いい歯ざわり。
手で割ると、紅練り部分に薄氷のようにひびが入り、これも渋く美しい。
中の食感は羊羹そのもの。
きれいで甘さがしつこくない。
すっきりとした、深い味わいがゆっくりと来る。
上質の羊羹って感じだが、もなか種とのマッチングがとてもいい。
蒲生氏郷は千利休七哲の筆頭だったこともあり、この「老伴」は茶会用に作られたのではないか。
濃茶ともお薄とも合いそう(多分、紅茶にも合う)。
村岡総本舗(佐賀・小城市)の「紅練り」とよく似ているが、こちらの方がはるかに歴史がある。
●あんポイント 「柳屋奉善」の歴史は蒲生氏郷の出身地、近江日野から始まっている。蒲生氏郷が秀吉によって伊勢松坂に移封されたとき、御用商人として一緒に日野から移っている。
秀吉は「鶴屋」に命じて(現在の駿河屋)赤い羊羹(紅練り羊羹)を作らせ、前田利家や家康ら居並ぶ大名を驚かせて大喜びした、というエピソードが残っているので、その後、氏郷の御用商人だった柳屋奉善(初代)にこの紅色の羊羹もなかを作らせた可能性もある、と思う。だが、寒天や最中の登場は江戸時代に入ってからというのが定説なので、当初は紅色の蒸し羊羹だったかもしれない。
【新代表:サイドは3種類のあんぱん】
・鈴あんぱん(ごま付き)
パンも自家製で、素朴な、ややパサッとした食感。小麦粉の香りが強い。
中はほどよい甘さの白あんだが、板状の餅皮のようなものも練り込まれている。何だろう?
17代目の女将さんによると、白あんを炊く際に「鈴もなか」(この店のもう一つの名物)をそのまま入れて練り上げているそう。
その独創性にびっくり。
初めて味わう、不思議系のあんぱん。
「コロナ禍の中で考案したあんぱんです」とか。
口の中で押し合いへし合い、噛むたびにふくよかにとろけていく感触が悪くない。
・鈴あんぱん(青のり入り)
なんと白あんの中に青のりが練り込まれている。
フツーならミスマッチかと思いきや、素朴なパンと白あんに青のりの風味が柔らかな潮風のように撫でていく。
こってりした白あん。
これが面白い味わいに仕上がっている。イケます。
・あんバターサンド(つぶあん)
やや小ぶりのコッペに自家製つぶあんがてんこ盛り状態。
バターが寝そべるように入っていて、これはあんバター好きのハートをくすぐる。
つぶあんは北海道産あずき×上白糖。塩気もほんのり。
こってりとした甘めのあんこで、和の中に濃いラテンが入り込んでいるような、あんこのガブリ寄りって感じかな。
バターの塩気が効いている。
素朴な自家製コッペとのマッチングもクールだと思う。
17代目のチャレンジ精神に天国の蒲生氏郷もきっと驚いているに違いない。
「柳屋奉善」
所在地 三重・松阪市中町1877
最寄り駅 JR松阪駅から歩いて約5分