スティーブ・ジョブスが大の和菓子好きだったことは和菓子ファンなら知ってる人も多い。
だが、その中身については不明の部分が多い。
東京・赤坂の老舗「青野本店」が贔屓(ひいき)の店だったようだが、同店のホームページや関連資料を見ても「まんじゅう」が好きだったようだ、と書かれているだけで、はっきりこれだ、とまでは踏み込んでいない。
というのも赤坂青野のメニューには基本的に「まんじゅう」がなく、ジョブスが同店の何を指していたかは具体的には不明とのこと。うーん、困った(困ることはない)。
まんじゅう、こわい(そこに来たか)。
「餅菓子屋 青野」としての創業は明治32年(1899年)だが、ルーツは江戸時代までさかのぼるようだ。屋台売りなどもしていたようだ(こうした例は多い)。
ここからが推測になる。
思考錯誤の末、クエッションマークの奥からおぼろげに浮かんできたのが「豆大福」である。
まんじゅうと大福は形が似ているし、ジョブスが2週間置きに取り寄せていたという和菓子の中に「赤坂もち」以外に豆大福があったとしてもおかしくはない。
私がもし外国人だったら、大福を「まんじゅう」と言い違えていたかもしれない。
で、「とらや」に寄った帰りに、「青野本店」へと足を延ばした。
で、ゲットしたのが3種類の大福である。
●今週のキラ星
豆大福 税込み270円
栗大福 同270円
らむれーずん大福 同270円
※栗大福とらむれーずん大福は年内で終了予定
【センターは?】
御三家とは違う大納言あずきの豆大福
ここはやはりジョブスに敬意を表して「豆大福」をセンターに置くことにした。
通年商品だし、一般的な豆大福が餅に赤えんどう豆を練り込んでいるのに対して、青野の豆大福は赤えんどう豆を使わず、北海道産大納言あずきを使っている。
外見は黒っぽい豆がぼこぼこしていて、うっすらと餅粉がかかっているお姿はうまそうな豆大福にしか見えない。
賞味期限は翌日まで。
店のスタッフと雑談したら、ジョブスさんは豆大福もお好きだったようです、と教えてくれたので、当たらずと言えども遠からずだと思う。
●試食タイム
餅は柔らかな求肥餅で、外側に練り込まれている豆が「大納言あずき」であることがわかった。
私がこれまで食べた豆大福の中でも珍しい例。
サイズは小ぶりで、直径50ミリほど。重さは70~72グラム。
何よりも驚いたのが中のあんこ。
こちらも北海道産大納言あずきを(渋抜きを繰り返しながら)じっくりと炊いているのがわかった。
形がしっかりあるのに歯がすっと入る。大納言の柔らかさがとにかくすごい。
皮まで蕩けそうなぐらい、かすかに歯に引っかかる感触が絶妙。
仕上げの砂糖は「上白糖」だそうで、甘さをかなり抑えている。
塩は使っていないようだ。
なので、大納言あずきのいい風味が口の中で吹き上がってくる。
東京豆大福御三家の一つ「群林堂」(素朴の極み)とは明らかに別種の、やんごとなき豆大福と表現したくなった(どちらも好み)。
ひょっとして、この雑味のない透明感を好んだ、という可能性もあるかもしれない(個人的な解釈です)。
禅にもっとも近い豆大福?
【セカンドは?】
●らむれーずん大福
こちらも外から見ると豆大福だが、赤えんどう豆ではなく、よく見るとラムレーズンがぼこぼこ状態。
中は甘さ控えめの白あん(北海道産手亡)で、干しぶどうが練り込まれている。かなりの凝り方。
求肥餅の柔らかさとラム酒の刺激的な香りがストンと来る。広がる。
大人の、BGMにビル・エヴァンスを流したくなる、そんな味わい。
個人的にはこれが一番気に入った。
ジョブスが食べたかどうかはわからない。
●栗大福
こちらはこしあん。上質の、甘さも色味も淡いこしあんで、京都にも通じる上生菓子のあんこだと思う。
蜜煮した栗は丸ごとではなく、かけら状に砕かれていて、こちらもしっとりと柔らかい。
栗の風味が撫でるように来る。
こしあんと栗の上品なマリアージュ。これもジョブスが食べたかどうかはわからない。
結局のところ、最後は謎のままにしておく。
ジョブスは和菓子が好きだった。それだけで十分と思う。
「赤坂青野本店」
所在地 東京・港区赤坂7-11-9