今回は秘すればあんこ花、とでも表現したくなるロール状のあんこ菓子をご紹介したい。
丹波大納言の小倉あんを時雨(しぐれ)で手巻きした棹ものには一目置きたくなる。
京都の老舗・俵屋吉富(たわらやよしとみ)の「雲龍」や鶴屋吉信(つるやよしのぶ)の「京観世」が有名だが、今回取り上げるのは、東京・赤坂「塩野」の逸品。
菓銘が「山路の松」。何やらゆかし・・・地味系だが、あんこ好きには幸せホルモンがぷわーっと広がる、たまらない味わいだと思う。
とにかく見ていただきたい。
見た目はシンプルだが、それゆえに奥に隠れている「大納言あずきの渦巻き星雲」(この表現、スベったかな?)に驚かされる、と思う。
●あんポイント 時雨(しぐれ)とは基本的にこしあんと米粉を混ぜて、そぼろ状に蒸し上げた上質な蒸し生地のこと。餅粉や葛粉を加えることもある。「村雨(むらさめ)」とも言う。口どけのよさが特徴。和菓子の伝統的な技法のひとつ。
寒気団直撃の昼下がり、シンプルな和モダンの「御菓子司 塩野」の白地の暖簾をくぐる。
ていねいな応対。
創業は昭和22年(1947年)と思ったほど古くはないが、上生菓子などこだわりの強い上質の和菓子をつくり続け、和菓子ファンの間でも評価の高い店。
安くないが、ここはやむを得ない(笑)。敷居は高くない。
現在2代目。
初代はあの超老舗「御菓子老舗 塩瀬」で修業してから独立している。その「塩」の字を一時もらって「塩野」としたようだ。
・今回ゲットしたキラ星
山路の松 1棹 3300円(税込み)
どら焼き 1個 330円(同)
【センター】
2種類の極上あんこが究極の合体
円筒状のサイズを測ったら150ミリ×55ミリ。重さは480グラムほど。
包丁を入れると、艶やかな、蜜の気配とともに小倉あんが星雲状に現れる。
その密度と量に心が持っていかれそうになる。
よく見ると、丹波大納言あずきが夜の梅のようにきらめいている。
一片を取り分け、菓子楊枝で食べる。
外側のしぐれは意外に淡白で、こしあんがほどよく練り込まれて、いい小豆の風味と米粉のピュアな風味が7対3くらいで舌の上ですーっと溶けてていく。
甘すぎないのがいい。
主役の小倉あんはこってりとしているが、雑味がない。
あずきの風味が爆発(?)するかように口内で広がるのがわかる。
絶妙に混じり合い、「恋愛」の余韻を残しながらフェイドアウトしていく。
なのに甘さがしつこくない。
塩野のあんこの美味さには定評があるが、ここでも餡場の職人の腕が発揮されている。
抹茶も合うが、私はドリップコーヒーで楽しんだ。
極上のしぐれと小倉あんの舌の上の合体を祝福したい気分がしばらく続いた。
【セカンドはどら焼き】
焼き色が明るいきつね色できれい。
サイズは約95×90ミリと大きい。重さは約90グラム。
どら皮のスポンジがふかふかしていて、しかもしっとりと密度がある。
新鮮な卵の香りと蜂蜜がほどよく沁み込んでいる。
中のあんこはこちらも大納言あずきを使用、小豆の皮までじっくりと柔らかく炊かれていて、濃厚な食感がずしんと来る(やや甘め)。
それがきれいなどら皮との恋愛を確実なものにしている、と思う。
私はむしろ素朴などら焼き好き(例えば日本橋うさぎや)だが、ここまで上質を感じさせるどら焼きなら、財布のひもが許す限り、年に数回は通いたくなる。
塩野ははんなりした上生菓子や干菓子が有名だが、「山路の松」といい、このどら焼きといい、一歩下がったいぶし銀の存在にも注目したい。
「御菓子司 塩野」
所在地 東京・港区赤坂2-13-2