あんこ旅には思わぬ出会いがある。
私的に表現すると、あんビリーバブルな出会い。
栗の町・中津川(旧中山道中津川宿)を栗菓子の老舗を目指して歩いていたら、雰囲気のいい建物が見えた。
私のあんこセンサーがピピピと反応した。
それが「恵那饅頭(えなまんじゅう)」の二葉軒(ふたばけん)だった。
店から漂う香りですぐに恵那饅頭=酒饅頭だとわかった。
大正7年(1918年)創業以来、酒饅頭(さかまんじゅう)一筋の中津川界隈では知られた店。
店内に入ると、メニューは一種類だけ。驚きの饅頭屋さん。
雰囲気のある女性(3代目女将さんだった)が、下町娘のような気さくさで地元客にこやかに応対していた。朝10時過ぎ。早朝からひっきりなしに注文をさばいているのが見て取れた。
奥が板場になっていて、2~3人の職人さんが酒饅頭づくりに励んでいた。糀(こうじ)の香りが湯気とともにさわやかに押し寄せてくる。
ああ、いい光景。思いっきり香りを吸い込む。
・今週のキラ星 一折り10個入り(税込み1000円)
【蒸かし立てを試食】
女将さんが「これ食べてみて」と蒸かし立てを1個サービスしてくれた。
通りの反対側に出てから、熱々をフーフーしながら試食。
円形で大きさは左右5~6センチほど。厚みは2センチほどか。
蒸かしたばかりなのに、つやつやとした生地は表面張力でぴんと張っていた。酒饅頭の名店と同じ密度の小世界。
添加物などは使っていないので、賞味期限は「本日中」。時間が経つと固くなるのが実感できる。
背後に恵那山を控えた「二葉軒」を眺めながら、二つに割る。
きれいなこし餡が現れた。
口に運ぶと、生地のもっちり感に軽く驚く。
糀の香りは思ったほど強くはなく、絶妙なほんのり感と表現したくなるもの。
北海道十勝産小豆を使った自家製こし餡の上質な美味さ。砂糖は白ザラメでほどよい甘さに仕上げている。こし餡の量もたっぷり。
感動がじわじわ来た(この感覚がたまらない)。
ひょっとして私の大好きな東京・荻窪の「高橋の酒まんじゅう」(こちらも酒饅頭一筋)を超えるかもしれないぞ。
【約8時間後の試食】
夕食前にホテルに戻ってから包みを解いて二度目の試食。
驚いたことに表面のつやつやは同じだが、すでに固くなり始めていた。凄いこっちゃ。
「おじいちゃんの代(先々代)から同じ作り方なんですよ。糀(こうじ)から発酵させ、仕込みに時間をかけてます。伝わってる話では糀自体はおじいちゃんの前からのものなので、もっと古いんですよ」
お客が他にいたので、詳しくは聞けなかったが、酒饅頭一本勝負で店を維持しているのが驚きだが、自家製糀と地場の小麦粉で練り上げた生地を長時間寝かせ、それで自家製のこし餡を一つひとつ手包みして、毎日毎日その日の分を早朝から蒸かす。
賞味期限がその日中、というのもなるほどと思える。
皮は幾分固くなり始めていたが、こし餡のしっとりとしたきめ細やかさは1ミリも変わらなかった。
控えめな甘さと小豆のきれいな風味。糀の香りとその余韻。
残りは冷蔵庫に入れて、「固くなっても油で揚げたり、フライパンで焼いてもおいしいんですよ」(女将さん)の言葉を実践することにした。
【翌日約30時間後の試食】
翌日自宅に戻ってから、フライパンにサラダ油を多めに引いて、焼いてみた。
酒饅頭をこうしたやり方で食べるのは初めて。
表面の生地は固くなっていたが、焦げ目からいい匂いが漂ってくる。
これが別の美味さ。
表面がパリパリ。焼き色が渋い。焼き大福を思わせるが、生地が小麦粉なので、もっと香ばしい。
こし餡はほとんど変わらない。
なめらかな、あんこの粒子を感じる上品な味わい。
糀の香りは少し退却したが、揚げ饅頭よりも質が高いのではないか。
中津川で出会ったスーパーな酒饅頭。
あんこの神様は確かにいる。
「二葉軒」